いない人を探す
「この車は、僕じゃなくて剛埼さんという人が運転していたんだ」
「そうなの。それで、その人はどこにいるの?」
「……さ、さあ?」
「どこに行ったのか、心当たりは?」
「……さ、さあ?」
本当のことを答えたら、ため息をつかれてしまった。
それでも、事実なのだから仕方が無い。
僕は申し訳なさから縮こまりながら、とりあえず笑っておいた。
「メモかなにか、残していないの?」
その考えは、思いつかなかった。
僕は慌てて、車に何かが残されていないか探す。
呆れた顔で見られたけど、探す前に君が来たのだと、心の中で責任転換しておいた。
運転席から助手席まで、隅から隅を探して手に入れたのは、一枚の紙だけだった。
「……何だこれ?」
しかし書かれているのは、グチャグチャの線だけで、どういう意味なのか読み取れない。
僕はそれを彼女に渡す。
「……何これ?」
僕だって分からないのだから、そんなことを言われても困る。
二人で紙を少しの時間眺めたが、結局分からずじまいだった。
「ここでうじうじしていたって、戻ってくるのか分からないでしょ。いくらその人が強いからといっても、一人では危険よ。探しに行きましょう」
未だに、剛埼さんが帰ってくる気配はない。
命の恩人だから、さすがに見捨てるわけにはいかなかった。
そもそも、僕は車の運転が出来ない。
彼女がどうかは分からないけど、二人で乗っていくというのは、現実的じゃない気がした。
一人だったら待ち続けたいけど、彼女もいてくれるのなら探してみるのもいいかもしれない。
僕はベルトにさした銃を、そっと触った。
これで、どこまでいけるか分からない。
それでも、何とかするしかなかった。
これで、僕が彼女を守ろう。
「……そうだね。行こうか」
覚悟を決めて、僕は後ろを振り返る。
僕が守る、そう言って安心してもらうためだ。
見たことのある鞄を漁っている、彼女の姿があった。
「お、これいいわね。使える使える」
色々な銃を取り出しては、嬉しそうに笑う姿。
どう考えても、僕より頼もしかった。
「ん? どうしたの?」
「……いいや、何でもないよ」
とりあえず、あいまいに笑っておいた。
装備を準備万端にすると、僕達は外の様子を窺っていた。
ゾンビがいないのを、二人で確認している。
「そっちは?」
「いない」
「オッケー。それじゃあ、合図をしたら同時に出るよ」
「うん。分かった」
視力が良いのは自慢にならないと思ったけど、こういう時に役に立つんだな。
僕はどこにも怪しい影が無いのを見ると、彼女に伝えた。
彼女も何もいないのを確認して、僕達は外に出ることにする。
「行くよ」
「三」
「二」
「一」
「ゼ」
「悪かったなあ。遅くなった」
「うわあああああああああ!」
「きゃっ!」
合図と共にドアを開けようとした瞬間、後ろから扉が開く音が聞こえた。
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