ヒロインは突然現れる



 武器の調達も終わり、僕達はまた車で移動していた。

 外はまだ暗くて、時間はまだ深夜を示している。


 そうなると、段々と眠気が襲ってくる。

 僕は大きなあくびをして、隣を見た。



 ずっと運転している剛埼さんは、全く眠そうにしている気配はない。

 むしろ、眠ることは無いのではないかと思うぐらいに、とても元気そうだった。


 僕は、もう一度大きくあくびをする。



「眠いなら、寝ておけ」


 大きなあくびを二回もしたから、眠いのがバレてしまったようだ。

 気を遣われてしまった。

 我慢することは出来たけど、色々と疲れたので、ここは甘えておこう。


「すみません、少し寝させてもらいます」


 僕は小さくあくびをして、そして居心地のいいポジションにおさまり目を閉じた。

 仮眠のつもりだったのだけど、思っていたよりも疲れていたみたいで、深い眠りについてしまった。




 目を覚ますと、車が止まっていた。

 外は少し光が見えてきたが、まだ暗い。


 しかし、そんなことを考えているよりも、重要なことがあった。



 剛埼さんがいない。



 それは、どう考えたって良くない状況だった。


「え? ここどこ?」


 辺りの景色に、見覚えなんてない。

 下手に車を出て、探す勇気があるわけもなく。


「トイレ、とかだといいけど」


 車の中で、ゾンビが出てくる恐怖に怯えながら、外を眺めていた。

 エンジンを切ってくれていたおかげで、集まってくるということは、そうそうないだろう。

 それでも、絶対とは限らない。


 持っている銃だけでは、心もとなかった。



 剛埼さんが、帰ってくる気配が無い。

 僕は今の季節が、真夏でも真冬でもなくて良かったと考える。

 さすがに密室で、それは辛すぎる。


 スマホのバッテリーを無駄遣いするわけにもいかず、何もすることが無くて、とても暇だ。

 僕はあくびをして、目を閉じた。

 もう一眠りして、帰ってくるのを待とうと思ったのだ。



 しかし、それはすぐに妨げられる。


 扉を、激しく叩く音。何かを叫ぶ声。

 嫌でも目を覚ますしかなかった。


「なんだよ。剛埼さんか?」






 音のした方向を見ると、そこには天使がいた。


 とても綺麗で、美しくて、可憐で、どんな言葉を使っても、言い表せないぐらいに素晴らしい女の子だ。

 今まで見た中で、一番の美人。

 そんな子が、必死な顔で窓を叩いていた。


「助けて! お願い! ここを開けて!」


 締め切った窓越しでも、何を言っているのか分かる。

 彼女は助けを求めている。


 しかし、僕はすぐに鍵を開けることが出来なかった。



 きっと、ゾンビに追われていたのだろう。

 着ている服は、汚れていてところどころ破けている。


 そんな彼女が、ゾンビに噛まれていない保障なんて、どこにある?


 そう考えてしまったのだ。

 考えてしまった後に、必死で助けを求めている人の対して、なんて対応をしようとしているのだと自分が嫌になった。


 だから、ゆっくりと鍵を開けた。




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