武器の調達は大事である
剛埼さんの車に揺られて、連れてこられた先は、大きな店だった。
知らない店ではない。
しかし、一生関わりないと思っていたところだった。
「ここはあ、いいだろう。ぶっ殺せるものが、たあくさん揃っているからなあ。変態君も、好きなものを選べよお」
「あ、あはははは」
銃が売っている場所なんて、初めて入った。
僕は多種多様な銃や武器が並んでいるのを、視線をさまよわせて見ていた。
これを使いこなせるなんて、到底思えない。
しかし使えるようにならないと、この世界では生きていけないだろう。
店の外は真っ暗で、いつゾンビが現れるかなんて分からない。
それをためらいなく撃てるのかどうか、今の僕には自信が無かった。
そうしている間にも、大きなバッグを持った剛埼さんは、ためらいなく商品を詰め込んでいく。
無造作にしているように見えるけど、きっと彼なりに選んでいるのだろう。
僕はどれかを選ぶべきか。
しかし、どれが良いかなんて分かるわけがない。
手に持ってみても、重いと思うだけ。
使い方を習ったことはあるけど、実際に撃ったことなんて一度もない。
僕は近くにあるものを手に取ったり、戻したりしながら、時間を潰していた。
「ああん? まあだ、選んでいなかったのかあ? 変態君は、行動がおせえなあ」
そうしていれば、武器を選び終えた剛埼さんが、僕の元に来た。
肩に担いでいる鞄はパンパンになっていて、どれほどのものが入っているのかと、恐ろしく思ってしまう。
「すみません……どれがいいのか、分からなくて」
僕は選べなくて、謝った。
「ああ? それならそうと、早く言えよなあ。変態君にはあ、こういったのが使いやすいんじゃないかあ」
そうすれば近くにあった棚から、小さな銃を取り出した。
放り投げて来たので、落とさないように慌てて受け止める。
暴発でもしたら、危ないじゃないか。
「あああ、ありがとうございます!」
何とか受け止めて、頭を下げた。
銃の扱いになれている剛埼さんになら、扱いやすいものも分かるのだろう。
それなら、僕にも使えるのか。
どこにしまえばいいか分からず、ベルトに引っ掛けた。
良い置き場所が分かれば、そこにしよう。
「それじゃあ、ここを出るかあ。使える物は、全部持ったからなあ。もう必要は無いだろう」
「は、はい」
その量の武器を使って、どれぐらいのゾンビが倒せるのだろうか。
全員なんて、倒しきれないだろう。
そうしたら、またどこかで武器を調達しなくてはならない。
武器が無くなるのが先か、ゾンビを倒すのか先か。
それ次第で、僕達の未来は変わってしまう。
出来れば、生き残りたい。
「ほら、行くぞお」
出入口の前に立つ剛埼さんは、僕を振り返った。
僕はその後ろ姿についていく。
「ああ、そうだ」
店を出ようとした彼は、何かを思い出し、中へと戻った。
そして、すぐに戻ってくる。
その間、何をしていたのか。
僕のところからは、良く見えた。
彼はレジのところに、札束を置いたのだ。
しかも一つだけではなく、たくさんあった。
もしかして、代金を支払ったのか。
僕は、そのことに驚いてしまった。
こんな世界になってしまったのだ。
持って行ってしまうことだって出来るのに。彼は、そうしなかった。
「剛埼さん、意外に真面目ですね」
戻ってきた彼に対して、僕は我慢しきれずに一言声をかけた。
「んあ?」
かけた言葉に反応した彼は、僕の方を見てくる。
そしてすぐに、顔をそらした。
「もう金なんて、意味のねえものだからなあ」
彼の顔は、とても寂しそうだった。
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