頼もしい仲間は、どこか頭がおかしい




「僕の名前は、田中一郎です。よろしくお願いします」


「田中か。覚えやすい名前でいいじゃねえかあ。俺の名前は、剛埼だ」


「剛埼さんですね」


 屋敷から出た僕は、剛埼さんの運転している車に乗っている。

 彼らしい、ごつい見た目の車で、乗っていて安心感が凄い。


 助手席に座りながら、僕は色々と話しかける。


「剛埼さんは、元々この辺りに住んでいたんですか?」


「ああ? ……ああ、そうだなあ。住んでいたよ」


 剛埼さんも、特に嫌がるそぶりが無いから、調子に乗ってしまう。


「そうなんですか。……あ、そういえばなんですけど。……銃って、元々持っていたんですか?」


 普通だったら聞きづらい質問を、ノリと勢いに任せて聞いてみた。


 無言。


 沈黙。


 返事が無くて、僕はやってしまったと後悔する。

 調子に乗りすぎた。

 これは、マッチョを行使されても文句は言えない。


 沈黙が耐え切れなくて、僕は縮こまりながら、冷や汗を流す。

 いつ、隣から拳が飛んでくるのか。

 覚悟をしていたのだけど、いつまで経っても何も無かった。


 恐る恐る隣を見れば、眉間にしわを寄せている横顔があった。

 直接的な行動はされないみたいだけど、これ以上聞くのは止めた方がよさそうだ。



 僕は口を閉じ、車内には気まずい空気が流れた。




 そうして口を開かないまま、外の景色はどんどん流れていく。

 夜だからか、道には誰の姿もない。ゾンビもいない。

 しかし他の人達も、ゾンビになっている可能性が高い。


 まさか、あの場所だけがゾンビに襲われたとは考えにくい。

 そうなると、どのぐらいの人が犠牲になったのか。

 全世界に広がっていたとしたら、絶望しか感じられない。


 僕はスマホを取り出して、まず両親に電話をかけてみた。

 しかし、通じない。

 そして次は誰に電話しようか考えて、する人がいないことに気が付いた。


 友達はいないし、親ともあまり仲良くはない。

 こんな時に、孤独を感じるとは思わなかった。

 僕は落ち込みながら、スマホをポケットにしまう。


「親に連絡が取れなかったのかあ?」


 知らない間に、ため息をついてしまっていたみたいだ。

 今まで無言だった剛埼さんが、話しかけてくる。


「そうですね。どうなんでしょう、ゾンビになったのか。出られないだけなのか」


 まさか慰めてくれるとは思わず、僕は力なく笑った。

 最初は怖くて頭のおかしいマッチョだと勘違いしていたけど、実はまともな人なのかもしれない。


 剛埼さんに対して、僕の評価は上がった。







「目的地変更して、家に行ってやろうかあ? 自分の手でぶっ殺したいだろう? 銃なら、貸してやるぜ」


「……い、イエ。ケッコウデス」


 しかし、その評価はすぐに元に戻る。


 僕はカタコトで断って、顔をひきつらせた。



「あ、あの。そういえば、今どこに向かっているんですか?」


 色々とショックなことが多すぎて、聞くのを忘れていた。

 僕は車がどこに向かっているのか、全く知らずに今まで乗っていたというわけだ。

 危機感が馬鹿になっている。


「ああ? 言ってなかったかあ」


 剛埼さんは、肩眉を吊り上げて僕を見た。


 そして、にやりと笑う。


「いいところだから、楽しみにしておけえ」


 その表情に、僕は不安しか感じられなかった。



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