話がさかのぼる時もある
―四十八時間前
学校なんて、どうしてこんなにもくだらない時間なのだろうか。
放課後、廊下を一人で歩きながら、僕は大きなため息を吐いた。
僕の名前は、田中太郎。
嘘だと思われるかもしれないが、紛れも無く本名だ。
この名前のせいで、昔からずっとからかわれていた。
「よお! 田中君! 今日も、暗い顔しているなあ! お前の周りだけ、ジメジメしているんだよ!」
それは、今も変わらない。
後ろの方から走ってくる音が聞こえたと思ったら、背中を勢いよく叩かれた。
軽い力では無く、全力だったので、僕の体は勢いよく前に倒れ込んだ。
廊下だから、大きな怪我をしなくてすんだけど、カバンから教科書や筆箱が散らばってしまった。
「うわあ、どんくせえなあ。何しているんだよ」
一人では行動できない奴等は、取り巻きを従えて僕を馬鹿にしている。
「ご、ごめん」
ここで殴ることが出来たら、この状況はすぐにでも違ったものになるはず。
しかし実際の僕は、散らばった物をかき集めながら、何故か謝っている。
だから、相手を予定に調子づかせるのだ。
「本当だったら、いしゃりょーとか取っても良いぐらいだけどね。俺は優しいから、許してやるよ」
「あ、ありがとう」
慰謝料すらも漢字に変換できない奴に、どうしてこびへつらう必要があるのか。
上から聞こえてくる嫌な笑い声に、僕の頭はどんどん下を向いてしまう。
「ああ、そうだ。田中君。今夜、パーティーがあるんだけど、お前も来いよ」
「え?」
ほとんどのものを拾い終えて、どうやって逃げるのか考えていたら、リーダー格からそんなことを言われる。
驚きから顔を上げて、全てを察した。
ニヤニヤとした嫌な笑い。
絶対に僕を誘ったのは、何かをしようと企んでいるからだ。
嫌な未来しか、想像ができない。
しかし今ここで断っても、反感を買うだけだ。
それなら僕に残された選択肢は、
「う、うん。分かった。お邪魔させてもらうよ」
行くと言うしか無かった。
「オッケーオッケー。それじゃあ、八時に俺の家な。絶対に遅れずに来いよ」
笑い声と共に、たくさんの気配が遠ざかる。
それが聞こえなくなって、ようやく楽に呼吸が出来るようになった。
「はあ……最悪だ……」
荷物をカバンの中に入れると、ゆっくりと立ち上がる。
せっかく学校が終わって、解放されたと思っていたのに。
今からもう、夜が憂鬱で仕方ない。
僕はまた、大きくため息を吐いて、廊下をよろよろと歩いた。
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