第479話―鳴かず羽ばずの比翼―

昨日と同じぐらい日常が迎えるとは予想したが想定したよりも昨日だった。

今日は4年に一度と行なわれる国際大規模なイベントの開会式。

まだ懸案けんあんとされるもの抱えられ迫って迫りとうとう訪れた。

何かが起きるかもしれないと根拠もない予感という漠然を抱える。それに対照的に大きく変化をしないという現実主義な思想。

そして翌日となってそれは後者の結果となった。2020年と表記しているが開催年が2021年という後に生まれた人からすれば違和感を感じるかもしれない数字になることだろう。

ともあれ後々それが歴史となってどう評価されるのかは後になって判断する他がないとして現在は7月23日で東京オリンピック開会式。

平和を象徴とした世界的なスポーツを交わして別の国々が友好や平和を目指して築いていく国際スポーツ祭典。


「暑い…テレビの熱狂して熱い」


あついという巧拙のギャグには触れないでおくとして1年生になったばかりの女子高生が手をうちわ代わりにしてあおいでいた。

熱中症になるかもしれないと俺はクーラーのリモコンがあるローテーブルの上を取ろうとソファから立ち上がる。


「ならクーラーをつけよう」


こんな暑い中わざわざ家に遊びに来た女子高生になったばかりの箙瀬比翼えびらせひよはソファの上で全身の力を抜けるようになっていた。

そんな虚脱感に陥っているのは怠けたいと言うよりも暑さに参っている。


「あーダメだよ。おにいちゃん少しでも節電しておかないとだから我慢しないと……それにしても暑い、暑いよ」


「ハァー。俺はなにも聞こえていないし忍耐が弱いし俺の家だから自由にさせてもらうよ」


「えぇー?なにそれ意見とか反映されないと言われるよりも悪質だよ。

……ねぇ電気代とかバカにならないし外でどこか行かない?」


「外にか。もう少し待ってくれないか。後で真奈が来るから」


「うわぁー!真奈ここに来るんだ。

クソ楽しみ」


さすが真奈プランド。無気力な比翼の名前を出しただけで明るくなった。


「比翼どこでそんな汚い言葉を」


「ニート先輩の女性の口調が移ったのかな?」


「ニート先輩?……ああ。あの人か」


主にユーチューバーで活動して真奈を招いて撮っている彼女のことだろう。

たしか若者の一部にすこぶるとかヤバイなどの意味でクソを使う人がいたけ。けど普通に汚い言葉なのでオッサンみたいだなと思いながらも注意しておかないとならない。


「比翼そんな汚い言葉よくないよ」


「口うるさいなぁ。と反論したけど確かに汚い響きだよね!反省っと」


聞いてはくれないだろうと半ば諦めていたが自省してくれた。

自由奔放ではあるが心の性根は純粋で率直さがある。

そんなやり取りをしていたらピンポーンと予備鈴が鳴る。


「噂をすれば影」


「じゃあ真奈おねえちゃんが来たんだ!わあーい真奈おねえちゃん」


両手を上に突き出して喜びを分かりやすく表現して比翼は玄関に向かう。


「はは、素なのか演技か分からなくなるなぁ」


なかなかオーバーであるけど真奈なら致し方ない歓喜であると思ったが

あそこまでキレイに喜びを体現するのは演技ではないかと推定してしまう。

もしそれが演技であったとしても

喜び具合を比翼なりに表しているかもしれない。

比翼の後から玄関に続いている廊下を入ると玄関の上がりかまちで腰を下ろして靴を脱ごうとする真奈の後ろ姿。その背にヒナ鳥のようにはしゃいで質問責めをする比翼。

ふむ、母親と娘かなと思ったがそんなことを呟こうとすれば何を言われるのか分からないので心の奥でつぶやく程度にすませる。


「真奈たぶん外は暑かったよね。

手洗いを終わったら真奈アイスやジュースがあるからいつでも手にして構わないよ」


「フフッありがとう。

お言葉に甘えることにします。

それで向かっている途中コンビニで購入したお兄さんとワタシの分は冷蔵庫に入れておきますねぇ」


エコバッグを軽く持ち上げてみせた真奈。向かっている前から伝えて置くべきだったかと真奈の配慮を想定していなかった俺は反省していると脳裏によぎる。果たして真奈は、買わなくても大丈夫と伝えても手ぶらのまま真奈は

来るだろうかと。

去年まではそうであったがここ最近は何かを持参して渡されたりされている。これが気の所為だといいのだが本当だとしたら返すのが容易じゃないなぁ。精神的に多くを支えられているのに物まで貰ってしまうのは厚顔無恥な俺でもためらう物はある。


「この会話なんだかカップルみたいなんだけど……真奈おねえちゃん

一線を越えていない?」


こやつ…なんてことをと俺は比翼のそんな気になっても訊けないワードを平然に言ったことに俺は呆れる。

忘れてはいないだろうか比翼よ。真奈は天然で何故かそういった知識にはゼロに等しいのだ。


「……なぁ!?なぁ、なんでそんなことを聞くの!?ダメだよ比翼まだだけど、軽はずみに訊くなんて失礼だからねぇ!」


お淑やかな言動が多いであろう真奈様は顔を赤らめており言葉も早口になっているようだ。……これは意味を知っていますね。えぇ、そうですか。


「こんな場所で話すよりもリビングて談話しないかい二人とも」


このやりとりは無かったことにしようと俺は催促という選択した。

まだ冷静さを取り戻していないであろう真奈は3回ほど頷いて大きなカバンを背負って居室へと向かう。

ちなみにあのカバンは家に泊まるためにこしらえた物である。

リビングについてきた比翼と真奈は俺がお茶や菓子の用意している間に、学校のことなど話の花を咲かしていた。

ソファ前のテーブルに人数分を置いてから俺は真奈の隣に座る。


「おにいちゃん触れないようにしていたけど……真奈おねえちゃん格好どういうことですか?

血のようなワンピースしているけど」


「はは。ワタシ血色のワンピースで外を歩いていたんだ」


ファッション力が良くなったと思ったがときどき奇抜な衣装をすることがある真奈。そこには触れないでおこうとした血色のワンピース。

ワインレッドという明るい赤色ではなくダークなくすんだ赤色。


「真奈おねえちゃん事件を冒した犯人の格好にも見えるよ。

夏なんだしワンピースのカラーは青とか白が妥当じゃないですか」


「そうかな。自信はあったんだけど……次からは比翼みたいに青のワンピースに戻しておこうかな」


目を細めて微笑んだ真奈を見た比翼は大きくため息をこぼした。

真奈が言ったように比翼のコーデは青色のワンピースだ。

つややかがある黒のロングヘアーにはウェーブがかっている。表裏とかなさそうな目をしているが冬雅よりも

裏がありそうなイメージがどこかとあるのだ。


「真奈おねえちゃん頭がいいのに生活に関する知識とか少ないですよね。

あっ、ついでに伝えておくけど私もおにいちゃんの部屋で泊まることに

したの」


コンビニにでも行ってくるでも発言のごとく比翼は気軽な雰囲気でそんな発言をしたのだった。

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