第478話―岡山県とは関係ない妖怪之弐―

いままでのあらすじ。

久しぶりに冬雅と二人きりで葛西臨海公園デートする。だけど冬雅は舞い上がり過ぎて過剰なほどアプローチを仕掛けて来た。それで後ろから冬雅の同級生といわれる男性にデートを目撃されるのだった。

自然が豊かな緑あふれる散策路にあるベンチに腰を掛ける。右から人物には冬雅、俺とイケメン大学生さん。


「好みがいましたのでナンパしました。いわゆる逆ナンになりますねぇ。

なかなか誘いに乗らないので苦肉の策にお兄ちゃんと呼びますと喜んでデートしてくれました。そういう

経緯なのです!」


焦燥感に駆られていた冬雅は矢継ぎ早にそんなことを言って説明。


「………」


彼は言葉を失っていた。どうにも状況についてこれないのもあるが冬雅の反応が以外すぎるのだろう。


「冬雅ストップ。

混乱して焦ってしまうのは分かるがいったん落ち着こう。さぁ、深呼吸しようか」


「は、はい。……すぅー、はぁー。

えへへっ。支えになる言葉ありがとうなぇ、お兄ちゃん」


もうそれ失念じゃないかな?

まだ同級生いるし恋人とか間違われたらアウトだと思う。…いや元同級生になるのか?それを問うよりも、どうしたら窮地を脱することができるか。


「あ、あの…お二人はどのようなご関係ですか?」


(やはり訊いてきたか!?

しかし俺には秘策がある。即時的な案ではあるけど)


もしまた淫行条例で逮捕でもされたら冬雅は自分を追い詰めてしまい去年のような目の色が褪せられた姿を見ることになる。

それだけは回避をしなければならないと切り抜くための策をいくつか立てて用意したのだ。備えあれば憂いなしとはこの事よ……でも、犯罪を逃れようとする邪な行動なので罪の意識が強く襲われるが冬雅に迷惑を掛けないためなら乗り越えてみせる。


「…実はですね。冬雅とは長いご近所の付き合いなのですよ。

だからときどき行き過ぎた行動をするのもたまにきずですが、すっかり兄妹のような関係でして」


いけるはず。ただ兄妹というだけでは名字の違いや容姿などで疑われる可能性はある。されど、こうして

仲のいい長い付き合いの近所の人であり家族のように接しているとアピールすれば頷いてけれるはずと信じたい。


「ああ、そうなのですか。

いやぁ驚きましたよ。まさか冬雅の彼氏じゃないかって疑ってしまいました。冷静に見て考えればそうですよね。どう見ても釣り合わないのに、あっはは」


釣り合わないか…そういえばそうか。

俺は太陽から来たと錯覚されるほど姫のような笑みを浮かぶ美少女。そんな比較しても俺は根暗であり内外を鍛えようとはしていない。

できる事があるとすれば冬雅のために手伝うことやサポートするだけで隣に立てるとか現実そうなんだろう。


「はい?何を言っているのですか牛鬼さん。寝ぼけているようですので教えてあげますよ。

お兄ちゃんはだらしない女の子に軽蔑とかバカを見るような目を向けません。優しく指摘してくれて掃除をしてれる人です。

それに手を繋ごうとか欲望のまま迫ろうとしません。これは大きいです。

それに自分の時間を割ってでも、わたしのためにお弁当や勉強など手伝ってくれますし笑わせようと不器用ながらも頑張っているのもかわいい。

それとそれにです!お兄ちゃんにはわたしを内面を見てくれます。

それが凄く嬉しくて人として尊敬する面もありますし将来的には永遠に隣にいたいと思っています。

どう見ても釣り合わなくても絶対に隣に立つんです!諦めない必ず手にするんです!!」


ほとばしる様々な愛情や温情と恩情を吐露して心に突き刺ささって伝わってくる強風。

おそらく本音…いや間違いなく心からの正直な気持ち。そうであるなら俺も冬雅がした強風の凄まじい情に正面から応えないといけない。

だがその前に――


「……ふ、冬…雅どうしんだい?」


驚きのあまりに呆然とする牛鬼と呼ばれる青年は小さく呟く。

ここまで冬雅が叫んでしまっては誤魔化すことや危機を逃れようとするのは難しいたろう。だとすれば取る

手段は一つになるか。それは賭けであり彼を信用が前提となるもの。


「これで行くしかなさそうだな。

分かった。ここまで違和感を持たれたら不審では迷惑だろう。

だから少し話が長くなるけど聞いてくれるかい?」


「……はい」


もっとも分かりやすい態度が変化したことを察知した牛鬼さんは目を瞬かせて姿勢を俺に向けて背筋を伸ばす。


「お、お兄ちゃん…」


袖を引く冬雅。肩越しから振り向くと無理をしていませんかと無言からの言葉を掛けられた。そう解釈した。

本当はなにを伝えようとしたのか俺には分からないが俺のこと心配していることだけは間違い無いだろう。


「単刀直入に答えさせてもらうと…俺と冬雅は恋人予約中の擬似的なカップルで――」


それから語り出すと不思議と言葉が尽きずに出てくる。もちろん真奈たちを伏せている。もし出したら話が複雑化してうまく言語化して説明をする自信がなかった。そして説明を終えると。


「な、なるほど二人はそういう関係なのてすか」


やや理解に苦しむと顔には出ているが頭に繰り返して彼なりに分かろうとしていた。

まぁ、あまりにもレアすぎる事態なのもあり荒唐無稽でもあるからな俺と冬雅の思い出は。頭を抑えていた彼は顔を上げて再び言葉をする。


「あの高校卒業していますし。冬雅との付き合いをわざわざ隠さなくても良かったのでは?

ほら両親にも太鼓判を押されているわけですし不安材料とか無いじゃないですか」


「「あっ!」」


フム彼の言うとおりだった。そもそもの懸念事項は既に認めてもらっておりそこを怯えることや心配を向けるというのは解決済みなのだ。

先程から目撃される前にそんなやり取りをしていたのに失念していたとは。

しかも冬雅と二人きりでだ。


「しまった…まさか忘れるなんて」


そう呟くと身体や思考が弛緩する。

なんだか急に脱力がやってきてあれほどシリアスになったのは何だったのかと自分に突っ込んで問いただしたい。


「あははは、まぁいいじゃないですか?名乗るの遅くなりましたよね。

俺の名前は岡山牛鬼おかやまぎゅうきと言います」


フム、岡山県という名字の表記とおぼえておいてと後の名前もインパクトある。牛鬼というと西日本で猛威を振るった有名すぎる妖怪の名前だ。


「これはご丁寧にどうも。

私の名前は山脇東洋です」


ビジネスの世界から離れて一年近くと立つ身としては名乗るのが苦手になってきたが及第点を送ろう自分に。

さて、岡山牛鬼さんはまるでアイドルのような笑顔で握手を求めた。

俺はそれに応えようとするが一部だけ応えない。ひじを突き出すようにする。

それを見て硬直した岡山牛鬼であったが真意を理解すると肘とヒジで軽く当てて握手の代わりに友好的な証として交わすのであった。

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