第384話―序章の太陽と月5―

日没が迎える前に食材や冬雅達が愛用するシャンプーなどの生活必需品を購入して最寄りの駅前を歩いていると突然、視界が暗闇になる。

意識が朦朧もうろうとしたという危機的な状況ではなく背後から両手で物理的に包まれた。ようするに目隠しである。


「さて、兄ちゃんに問題です。

ボクが誰だか分かるかな?タイムリミットは5秒」


不死川紬しなずがわつむぎさん」


「えぇー、即答かよ。なんだつまんないじゃん。まぁ、すぐに分かった事に免じて許してあげよう」


塞いでいた両手を離れて背中の方へ振り返ると迷わず答えたからか弾けんばかりの笑顔を浮かべる不死川さんが両手を後ろの腰あたりに組んで身体を左右に揺らして立っていた。


「うぉっ!?すごい荷物だけど買い物の帰り道だったりするわけ?」


「ああ、今から帰る所なんだ。

不死川さん、もし時間が空いているなら一緒に行かないかい?」


「もちろん行くに決まっている。それでマナマナは今日は来るの?」


真っ先に訊くのは真奈が不在かどうか…彼女らしさに俺は苦笑をこぼした。


「ああ、学校にいる時間の以外はたぶん俺の家にいるはずだから…向かう前に動画に必要な道具など取りに戻ったほうがよさそう?」


「いえ、たまには手持ち無沙汰という状態でいいかな?

それよりも…兄ちゃんの口からヤバい発言があったんだけど」


快活な態度が一変。不死川さんの怒らせた原因が分からないが猜疑心さいぎしんを剥き出しに俺は戸惑っていた。


「な、何か気に障るような事を?」


「気に障るほどじゃないと言うのか、学校の以外は家にいるなんて同棲しているみたいな発言だなって」


「な、なるほど」


確かに言った。もう隠さなくてもいいと気の緩みから生じた発言をしたのだ。さて、ここから上手く

誤魔化せるか俺の技量が試される時。

そして数分後、青空は赤みがかった暗闇色に染まっていく住宅街で。


「女の子を二人を泊まるってバカなんですか?JKのボクでも分かるよ。

それ社会的に法的にまずくないの。ねぇ、バカなの死にたいの」


語るに落ちる流れ、二人が泊まっている経緯なども含めて仔細に説明をした。傾聴してくれた不死川さんが呆れ果てるのも当然の反応だった。


「弁明の余地もありません。しかしですな双方の両親に許されていましてまして…はい」


「何その、オッサンみたいな言い訳。というか弁明の余地ないと言って弁明しているし」


有耶無耶にしようと必殺技または伝家の宝刀である混迷を喚ぶ言葉を使用したが、突っ込まれて終わった。

さて、そんなバカな試みはこの辺にしないと不死川さんに鬱憤たまるかもしれない。


「くだらない冗談はやめて素直に返事をすると冬雅も真奈を追い出さなかったのは、心のどこかで心地よかったからだろうね」


「ほーう。だからって普通に泊まらせるものなの?」


「そうだね、でも二人がいつもの後先と考えない勢いだったら断っていたかもしれないけど、

強い意志があったんだ。それに俺と似た感情を抱いて泊まりたいと一致したならいいかと至ったんだ」


想ったままに上手く言語化にならず拙い言葉となった。不死川さんは暫く手を顎に当てて熟考する。

磊々落々らいらいらくらくと勝手なイメージを持つ俺は彼女の意外な行動に新しい一面を発見したなと、ぼんやり思った


「いいんじゃないかな。もう、兄ちゃんもフユミンもマナマナ3人には余人に割り込めない仲ですし、

応援しておきますよ」


不死川さんは深く考えた結論は見守り応援することであった。肩を竦める彼女は、おそらく真面目な面を見せるのはなかなかいないだろうなぁと漠然的に思って。

家の前に到着して冬雅達がいると考えたら変に緊張と幸福感が心に一陣の風が吹かれる。

鍵を開けると靴には冬雅と真奈はまだ帰宅していないようだ。


「お邪魔しまーす」


不死川さんを家を上がらせてゲームでも遊ばせればいいかなと楽観視していた。


「兄ちゃん今日はゲームは…」


「そ、そうか…」


リビングでゲームを勧めてはみたが気まずそうに断れた。

動画撮影でゲーム楽しそうにしていたから喜ぶと思ったけど、どうやら決めつけていたようだ。


「それじゃあ不死川さん今期のアニメ録画しているので見る?」


「うん。それにしようか」


空気を読んで無理に明るく気遣った振る舞いをさせてしまった。

気配りをしないといけない沈黙、そういえば不死川さんと長く二人でいた時間は無くお互い受動的もあった。

ピンポーンと鳴り響いた。


「あっ、フユマナかも」


このフユマナは冬雅と真奈の略称だろうか?尋ねるか迷っていると不死川さんは玄関に向かって走っていた。俺は走った彼女の後に続く。


「お兄ちゃん…えへへ、ただいま」


「お、お兄さん助けて。紬がなかなか離れてくれないんだけど」


リビングから出る俺に気づいた冬雅は満面な笑みで手を振る。真奈は頬ずりする不死川さんに対応に困り助け舟を求められた。

…うん、平和な光景だ。そして二人の後ろに花恋の姿があった。


「もうカオスだよ東洋お兄ちゃん。ついでに、ただいま」


それは冬雅と真奈の帰路に就いた事か不死川さんの歓迎ぶりのどちらだろうと思いながら花恋は苦笑して挨拶をするのであった。

そして冬雅と真奈の二人は制服から着替えてコスプレ用の制服を身に纏う。リビングで着替えを終えるまで待っている間に俺と花恋と不死川さんの三人でトランプで遊んでいたら二人は降りてリビングに入ってきた。


「…山脇さんですか。こんばんは今日も女の子を侍らせているんですねぇ」


冬雅は表情を読み取れない淡々とした声音と表情で挨拶をした。


「何をしているのよお兄さん。

こんなに女の子がいるなんて不謹慎です!不潔だと思います」


一方で真奈は指を向かる方向にはダイニングテーブル座る二人の美少女を見て憤慨した。花恋と不死川さんは俺から斜向かいに座っていて呆然となっていた。


「え、えーと何が起きたの? これ…東洋お兄ちゃん説明して!」


「えーと、フユリンとマナマナは大人だから大人の遊びか何か?」


「そうか…二人ともこの頃の冬雅と真奈を知らないからそうなる。

違いますよ。話せば長くなるけど」


二人は俺と知り合ったばかりの時代に遡って演じるという小説のインスピレーションための協力。

まだ終わっていなかったんだと俺は胸中で呟くのであった。

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