第383話―序章の太陽と月4―
「行きたくないよ。時間の許される限りにお兄ちゃんとデレデレとした会話を続けたいよ真奈」
「そんな願望は帰ってからにする。ほら急がないと遅れるよ」
通学をする時間となり俺は玄関まで見送ろうとしたためか冬雅は走れば間に合うという主張して引き返そうとした。
そんな行動論理に真奈はため息をこぼしながら冬雅の手を掴み外に出ようと強硬策を取った。
今日は熱烈な抱擁などしておきながら満足感が足りていないのか難色を示す冬雅。
「気持ちは嬉しいけど帰宅すればいつでも相手をするから今は学校の事を考えた方がいいよ。
卒業まで、そう長くないんだから」
最後の高校生活だから大事にした方がいいと伝えたかったが思ったやりもなかなか稚拙。
自分でも知っていたが伝達能力が低い、だから会社に解雇される要因にもなったのだが。そんなことよりも冬雅に最後の高校生活を
意識させるような示唆の言葉は空虚的だと思った。
冬雅は以前は学校生活を充実感のある方ではなかった真奈と友達から親友に変化をもたらし笑顔を見せるようになった。
俺の視点で見た真奈の当初は、しっかり者で好戦的なイメージだったが親交が深まってから感情を顕になり次第に隠さず公然と示した。
「うーん、お兄ちゃんの言葉も一理ありますねぇ。寂しくなると思いますが行ってきます。
放課後は最低限の行動をして全力で帰宅します」
「一理はあると答えているけど、やんわりと受け流しているじゃないかな?
お兄さん行ってきます。冬雅の事は任せてください」
「それなら安心して任せられるなぁ」
「あ、あれ?これだと、わたしが問題ばかりを起こす常習犯みたいになっていないかな?」
問題というよりも自由奔放さに場を混乱と絶叫を引き起こす。
俺と真奈はそれには触れずに進む。
「二人とも感染はしないように気をつけて行くんだよ」
「はい。十分に気をつけて行きますのでお兄さん安心して待っていてくださいねぇ。
帰ったらワタシのゲームで相手になってもらいますので。行ってきます」
「ひ、引っ張らないでよ真奈。
お兄ちゃんどんなに離れても心は一緒ですので休み時間になったら連絡しますねぇ。行ってきます、それと永遠に愛していますよぉぉ!」
「ああ、今日もいい思い出を」
冬雅よ、いくら相思相愛でも恋慕を向け過ぎだと思います。ぞんざいに扱ったが本当は舞い上がるほど嬉しいのだが冬雅のように素直になれないのだ。踵を返して廊下を歩きながら先程の出た薄い言葉を振り返る。
(二人には最後の高校生活だって偉そうに言ったけど俺のラスト高校生活なんて当時は嫌な事が立て続けに起きたんだとマイナス思考からの自暴自棄で楽しむ余裕も
なければ親しい友や教師がいるわけじゃないから思い出なんてなかったけど…二人は充実しているんだろうなぁ)
そんな体験をした俺は今でも高校生活というのは、どこまでも希薄で印象的な思い出は無かった。
恋愛をする生徒を羨むことも妬むことも無く眺め、仲良くなるコツなんて分かるほど器用ではなく惰性的に過ごし、そんな淡白とした性格でも片隅には青春を
そんな人間が高校生活を楽しむといいなんて中身が無いにもほどがある。
それから冬雅と真奈が学校で授業を受けている間に俺は、買い物と執筆をしていた。
(びっくりするほど平穏な時間が流れているなぁ…)
ソファーの上で両手を上げ身体を真っ直ぐ伸びをしてからコーヒーを入れて休憩する。
部屋に差し込むのは日が闇に包まれた赤い色で染まった黄昏の色。
(二人とも新型コロナに掛かっていないといいんだけど…)
こうして待っているだけというのは不安で仕方ない。それに急に訪れるだろう花恋達だって元気なのかも気になる。文字や画面越しでは容易に体調を隠せられる。
俺はこんなにも人間関係で一喜一憂なんてするような人間じゃないと思っていたけど気づかず変化をしているみたいだ。
そんな漠然な変化と呼べるかを発見して数分後にガチャと解錠の音が玄関からリビングにまで聴こえた。
(どうやら帰ってきたみたいだ)
重い腰を上げて玄関に向かう。幸いと言うべきか向ける足取りは軽やかに早く歩けた。
リビングを出て鍵を開けて靴を脱いだ冬雅と真奈の姿が目に入る。
「えへへ、最愛のお兄ちゃん帰ってきました。手を洗ったら今すぐにハグを要請します!」
「どんな要請なの…もし本当にギュッとするならワタシもお願いしていいかな、お兄さん?」
「無理です。もう今朝でしたんじゃないか二人とも」
俺のセリフもどうかと思うが二人の謎の要請よりも幾分マシだと思う。
すっかりお決まりの手洗いを終わらせてから二人は二階へと普段着に着替えに上がる。俺はリビングでPCを閉じてから清掃を始める。
乾いた
振り返れば二人が立っていた…普段着ではなく以前にしたコスプレ用の学校の制服だったが。
「暖房をつけておいたよ。ちょうどいいタイミングでもう掃除を終わらせたから今日は何をしようか?」
帰宅した二人に歓迎をして台所に向かい布巾を洗ってからシンクの上に置いて戻る。
どうして本物の制服から偽の制服に着替えたかなんて俺はツッコミなんかしない。これぐらいでは驚かない。
「お兄さん」
冬雅がいつものように俺をそう呼んで近づいて…んっ、あれ?お兄さんと耳に入ったが何かの聞き間違いだ。
「お、お兄さんなんて変態さんです。真奈に変な目で見ないでください」
腕を組んでそんな威嚇のような忠告をするかのように威圧的な態度で見上げて言うのであった。
「ど、どうしたんだ急にそんなセリフを!?
わ、分かった…今日はツンデレになる日なのか」
どう解釈すればツンデレの日と答えに至るのかを口にしてから遅れて悟った。さて、ツンデレ冬雅も萌え萌えになるのは置いといて
何が目的で狙いなのか分からないままだと気になってしかたない。
「聞いて…お、お兄ちゃん」
冬雅に続いて真奈が俺をいつもと違う呼び方を発する。気のせいか淡々とした声で。
「ま、真奈もか…ツンデレ返上して取り戻す時が来たのか」
「そんなことより、早く……えーと、眠たい」
「そ、そうなのか…俺はどこをツッコミをすればいいのか」
ここまで状況が見えなくなると冷静に頭がゆるやかに素早く駆け巡っていく。ここで確認すると冬雅はツンデレ、真奈は感情が乏しそうな人物で一人称がいつもと違う。…いや、共通点がある。
落雷のごとく脳裏によぎる閃き。
「……もしかして冬雅と真奈が入れ替わった設定で話を演技をしていない?」
「きゃあぁぁ、お兄ちゃんそこまで気付けるなんて凄いです!」
「おぉー、お兄さん気づくの早い」
いつもの口調に戻って称賛の言葉を上げるのだった…この反応から察して適中したようで何故こんな
事をしようと考えるのであった。
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