第376話―陰キャラと陽キャラ―

陽キャラである花恋かなの発言に不死川さんは肩を震え――


「って、誰が陰キャラだあぁ!!

この勝ち組スーパー陽キャラがあぁぁ」


俺のリビングで怒りの絶叫を上げた。二人は居室内で、ソファーの横で立っていた。

美しいセミロングが特徴の一つである広岡花恋ひろおかかなは目を見開いて面を食らっていた。


「ご、ごめんごめん。軽い冗談だから、そう怒らないでよ」


少しぞんざいな言葉と得意の明るい笑みを浮かべさせて場を収めようと試みたが不死川さんは納得しなかった。


「…空白じゃん」


「えっ?」


花恋は目の前にいる女の子に笑顔から疑問が生じた表情で小首を傾げる。


「すごいほど雑じゃない言っているんだよ。あらゆる場面で成立させてしまう冗談って言えば丸く収まるとか思っていない?」


「えっ……ご、ごめん。そんなつもりじゃなかったの。

ごめんなさい傷ついたよね…ぁッ」


ここまで反論されるとは思わなかった花恋は涙をにじみながら謝罪する。すべてを汲み取れないがおそらく傷つけた事実と

怒らせたことに涙を目に貯まるぐらいに。

小さな嗚咽が出る彼女に今度は不死川さんが困惑する番だった。


「え、えーと…ボク怒っている感よりも本当は指摘したい感で言った感じで。その、その」


(そろそろ傍観はせず止めないと)


PCの画面から二人の方へ見上げる。


「二人とも少しいいかい?

第三者である俺の意見だけど」


ソファーで座っていた俺の言葉に二人は、解決案を出してくれると期待の眼差し。そうしたいけど

解決案ではないんだよなぁと内側で呟き腰を上げる。


「二人は行き違いしているんじゃないかな思うんだ」


「っぅ…東洋お兄ちゃんが言った行き違いはなんですか?」


涙声である花恋の問い掛けに俺は、振り返って憶測を述べる。


「まず不死川さんが怒ったのはノリのようなものだったと思うよ」


「う、うん。ちょっと陰キャラ言われたときは驚いたけど、これ

ボクが怒る流れかなって」


ギャル語のボキャブラリー豊富の不死川さんは首をたてに振る。


「…えっ、そうなの。ノリなのね」


「う、うん。…ちな素直に言うと少しイラッとしたけど」


ちな?またギャル語を…どんな意味だろうかと俺のボキャブラリーと虚構を見てきた推理力を駆使する。


「あはは、兄ちゃん意味は、ちなみにだから。インプットしないと」


「なるほど…あれ前にもこんな事が」


悩んでいたのが分かった不死川さんが教えてくれた。最後のインプットは次は忘れずにしてくださいと示唆的であろうか。

ともかく行き違いになった発端ほったんの誤解を解かなければならない。


「さて話を戻そうか。花恋が言った陰キャラという言葉だけど」


数分前に花恋が言い放ったのは――

「ねぇ、陰キャラで疲れない?」

そこに付随ふずいするのは悪意が皆無の無邪気さ。

もし花恋を知るための時間が無ければ気づかなかった細かい感情の機微。


「そこには不死川さんを罵るような意図はないよ。たぶん…いや、

仲良くしようとしていた」


なかなか大人になると言う機会が減った仲良くしようと、いつもの俺なら友好を築く、距離を縮めると説明しようとしたが、この言の葉では花恋の思い遣りが不足する。

心の淵にある欠片ほどの陽キャラな声調で俺は説明をした。

不死川さんは驚いていたが大きな衝撃ではなく意図は伝わっていた。


「そうなんだ。あね」


ほんの少し前に知っているとあった。これは誤差を埋めるために必要があった。

ともかく…あねとは?


「は、恥ずかしいし感謝したくないけどするけど…東洋お兄ちゃん!あねは、あー、なるほどね略称だから」


羞恥と歓喜をない混ぜった顔を向けて疑問の答えをする花恋に感謝する。


「そうなのか…それって略称の意味はあるのだろうか」


「あっはは、兄ちゃんこれだと若者の言葉を知らないオッサンみたい」


「違うじゃないの?東洋お兄ちゃんは、お兄ちゃんなんだけど」


愉快に笑う不死川さんを苦言をていする花恋。けど、不死川さんの言うとおり俺は彼女の年齢から見られたらオッサンなんだよね。今年で29歳になるわけで。

話がやや変わったが閑話休題かんわきゅうだい


「とりあえず、すでに仲直りしている後だと続けようかと迷うもののスッキリしないから説明させてもらうけど要約させてもらう」


「ここで要約…」


腑に落ちないながらも仕方なく納得した花恋の呟き。


「花恋はこの話をなんとか当たり障りのないよう終わらせようとしていた。

不死川さんは万能の言葉である冗談でいい加減な区切りに怒った。

だいたい、そんなところだよ」


プチケンカしていた二人は多少なりとも言葉による伝達が得意ではない。

それゆえ誤解が出来てしまう。


「マジでそうなんだけど、肝心なところを雑に終わらせても困るんだけど」


「それに同意するよつむぎ


そんな自己満足に浸かっていると二人は雑をした推理劇場には思うところがあり顔を見て頷き意気投合を見せる。


「東洋お兄ちゃんには以前から言いたくて我慢していた事があったんだよね…いつもいつも冬雅さんや真奈さんにラブラブして

見ていて恥ずかしくなるの察してほしいと言うか、わたしをもう少し見てもいいんじゃないですか。

い、いえいえ皆さん的な意味でだから」


怒ったり、落ち込んだり、照れたりと様々な感情を表す花恋の早口の言葉の数々。


「あっははは!兄ちゃんに襲われたとフェイクニュースを流してやる」


隣の不死川さんの方が危惧するべき言葉だった。そんな流言飛語りゅうげんひごされたら社会的に抹消されるね。


「いやー、参った。降参させてもらうよ。JKのお二人には敵わない。

ですので、そのスマホで冬雅達には広めないでくださいぃぃぃ!!」


頭を下げて俺は懇願する。もちろんこれがユーモアだと分かっている。分かってはいるが、

万が一にも本当に実行するかもしれないので懇願した。

するとピンポーン電子音が部屋中に響く。まるで狙ったようなタイミングだ。二人は俺についていき玄関まで歩き俺はドアを開ける。


「はーい?…どうやら来客は冬雅か、こんちには」


「はい、こんにちはです。

お兄ちゃんのために作ったお菓子をあるので中で食べませんか?」


ショルダーバッグからラッピングまでした小さな箱を出して見せてきた。


「お菓子か…冬雅の手作りなんて懐かしくて楽しみだな」


居間に向かおうと振り返ると可憐が不機嫌そうに俺と冬雅を見ていて不死川さんは肩を竦めるのであった。

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