第369話―まばゆき約束、想い、笑顔―

星々が煌々こうこうと適度の輝きがよく見える圧巻の夜空。

見上げれば美しい夜空、駆け抜けていく冬雅を俺は必死に追って走っていた。

そのため家にたどり着いた頃には―


「ハァ、ハァ…ハァ」


「お兄ちゃん息苦しそうだけど、大丈夫?汗がすごいよ。

ふきふきしないといけないねぇ」


鍵を開けて開けると冬雅は真っ先に手を洗い、階段を走って上がるとタオルを持って降りてきた。


「早く顔を洗おうよ!お兄ちゃん早く、急がないと風を引いてしまうよ」


大袈裟だなと苦笑しながらも従う。それに汗で髪が額に粘着性があるみたいくっついて落ち着かないのだ。

顔を洗い終え冬雅が差し出されるタオルで拭いてスッキリした。個人的には冬雅の笑顔でタオルを渡す場面は理想的な光景にもほどがありグッズ化されれば爆買は確定だ。

冬雅が前に歩いてリビングに入り天井のシーリングライトが部屋中を照らす。そして炬燵こたつに向かい合うように入る。


「温かい…は時間は掛かりそうですねぇ。お兄ちゃんここに泊まられて正月を迎えられるの幸せですねぇ。

えっへへへ」


自分から言って照れるのは駄目だと思います。耳を傾ける俺まで顔が熱くなるのだから。

ともあれ頷いてみるが数時間前を振り返りよくそんな無茶な要求を

受け入れたなと思った。

客観的に分析しても簡単、女子高生に成人男性の家に泊まる…うん、すごい犯罪臭がする。


「そうだな。でもある程度の距離感は大事だから就寝するときは俺はソファーかコタツに寝る」


「そんなの身体からだに悪いよ、お兄ちゃん。な、なので、一緒にベッドで寝ようよ」


…俺は絶句をしていた。それに気づいたのは何分ほど経ったか。

さすがの追随を許さない行動力の冬雅でも恥ずかしさで顔を伏せている。炬燵を向かう形なので俯いても顔が赤いのは目立つ。それと耳も…ともかく凝視して不快にさせたかもしれない。

何か喜ぶ応えをしないと…。


「…わかったよ。冬雅そのかわり変な期待とかしないでほしいけど、一緒に寝てもいいよ」


「ほ、本当ですか!?やったー!」


無邪気に喜ばれると俺も僅かに感化して頬が緩めてしまう。

さて炬燵の中にいれば卓上に置かれているミカンに手を伸ばして剥いてしまう。炬燵とミカンの組み合わせの誘惑に見惚みとれる。

ミカンを食べる、惰性的につけたテレビを観る、ゆるめな会話で楽しんでいると時間は零時れいじに迫ろうとした。


「お兄ちゃん走った苦労ありましたねぇ。こうして、のんびり楽しく暮らして来年を…迎えられて……えへへ、涙が止まらないよ」


語っている内に涙腺が崩壊してゆっくりと静かに流れている。

印象は冬に咲くみやびな笑顔に心を夢中にさせる。


「冬雅…ああ、そうだね。

俺もそうだよ…最後は一人でなると落ち込んでいたけど冬雅と迎えるのは夢みたいだ」


「うん。それも夢みたいな出逢いだったよねぇ」


最後の一日は、俺の人生にある28年の中で一番の濃厚な一日だった。

時計の針は数分で次の日に訪れる、テレビも名前の知らない神社の鐘が鳴ろうと待つ人々に画面が移り変わる。


「少し早いけど、お兄ちゃん新年明けまして…おめでとうございます!」


最愛の人は屈託のない笑みで次も訪れるだろう最初の挨拶をする。

2021年が訪れる数分ほど早く挨拶するなんて冬雅らしい。


「ああ、明けましておめでとう冬雅。これからも告白を期待しているよ」


やっぱり冬雅が暴走して口走った毎日の告白には強く響くものがある。

我ながら無茶すぎるお願いだとしり却下しようと思った。かなり惜しいが。目の前にいる冬雅だって開いた口が塞がらない状態だし。


「はは、冗談だよ。冬雅これからも気軽にいてくれるだけで――」


「かしこまりました!頑張ります。毎日と告白をしますねぇ。えへへ、そんなに楽しみにしていたなんて知りませんでした!へへ。

では今年ラストの告白をですねぇ…

お兄ちゃん愛しています。大好き!ずっと一緒にいようねぇ!!」


冬雅の目にはまぶしいほど瞳と高揚感による紅潮。

恥ずかしさで逃げたいはずなのに顔を逸らさず見つめたままで。

今日だけは…最後だから俺も返すとしよう。


「冬雅に敵わないけど、俺も冬雅を大好きだよ。来年はデートをしよう」


「お、お兄ちゃん…」


や、やり過ぎた!?冬雅が人差し指をひたすら突く反応をしている。

沈黙が支配するとテレビから鐘が鳴る。画面に向けると2021年となった。この時、2020年は過去となった瞬間である。


「感慨深いですねぇ、なにかそんな気持ちになるです。

それじゃあ改めて、お兄ちゃん

今年もよろしくお願いします。明けましておめでとうございますです!」


満面な笑みで冬雅はそう告げた。

そして疑問符が浮かぶのは――


「あ、あれ?数分前にしたはずじゃあ」


既視感とするほど経っていなかった。


「はい。でも、お兄ちゃんに一回だけなんて…もったいないです!」


両手を元気にあふれるように挙げる冬雅に、脱力感が襲われ嘆息が零れる。


「ハァー、これが冬雅だったよ。

二度目の明けましておめでとう!」


そして今年は最愛の人と無事に有終の美を迎えられて、新たなる人生に笑顔で交わした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る