第279話―自炊編をご飯の炊き方―

翌日その日に三好茜さんからラインのメッセージ来ていた。珍しい、彼女は真奈や香音かのんみたいに毎日と送らない。

それどころか週に一回ほどだろう。内容は頼み事だった。

大国おおくにエミリーさん見に行けませんか?

本屋にも足を向けていなくて不安でして何をしているか気になっています。お願い出来ませんか。


「どうして俺なんかに頼るんだろう」


甲斐性どころか相談されるほど人生や的確なアドバイスなんて出来ない。でも、断るつもりもなかった。

俺は分かりましたと短く返信してから部屋を出る。リビングでいつもの冬雅に挨拶して二人で食事をする。

冬雅が登校するのを見送ってから階段を上がりエミリーさんに夕方4時ほど訪問と簡単な理由も書いて送る。

それから14時半。スマホを見ると返事が来ていて俺は買い物に行ってくると告げて外に出る。


「おにいちゃん、新しい女の子を作らないでねぇ」


「いや!俺のことをどう思っているのか詳しく訊きたいところ!!

ジュースを買うけど何する」


「メロンのファンター」


「分かった。行ってくる」


「道中、気をつけてねぇ」


明るく見送られ日光が強い外に。

雲がない快晴、夏であることを報せるアブラゼミの鳴き声。

比翼を見送られ一緒にいられるのは今年の夏休みで最後になるのだろうか。


(そうなっても比翼とは関係が終わらない。俺は比翼に頼れられる兄のような存在だから)


つらい現実を走って捨てようとした比翼は、その避けていた現実と向き合うほど精神は回復して前向きになっている。いずれその日が訪れると俺はもっと支えないといけなくなるだろう。冬雅や真奈にも頭を下げて協力をお願いして。

大国エミリーさんの住居は御茶ノ水にあるマンション。駐車場で見覚えのある高級車が止まっていた。

大国エミリーさんがいる部屋に向かうと歓迎される。


「わざわざ来てくれて、ありがとう。いやぁ会えて嬉しいよ」


「あっ、いえ。エミリーさんの元気な顔を見れて安心しました。

体調を崩していないか不安でしたので」


「はは、心配されるなんて懐かしいなあ」


哀愁を漂わせた笑顔。

それはいつも楽しそうな笑顔ではなく、それは何かを抱えたもの。


「エミリーさん。何か言えないような苦しい事なら私に相談してください。俺は・・・エミリーさんの力になります」


条件反射的にそう言い放つ。目を大きく見開き驚いて開いた口が塞がらず絶句するエミリーさん。


「…びっくりしたよ。そんな言葉を言うなんて」


「あっ、すみません。偉そうに言ってしまい」


「ううん。悩みはあるかな。

とりあえず上がってよ」


お言葉に甘えて俺はエミリーさんの後に歩く。絹糸ような金髪のショートボブにあどけなさがまだ残る碧眼へきがん

同い年とは思えないほど、可愛さと美人をあわせ持つ容姿。


「フフッ、気づいていた?お兄ちゃん途中から一人称が変わっていたよ」


「えっ?ああ!少しニート歴が長いものですから」


「その自虐ネタはつまんないかな」


会社を勤めていたときは一人称が私と呼ぶのに抵抗感や慣れていた。冬雅と話すようになってから

一人称や言葉遣いも当時に戻ってきている。少し改めてないといけない。リビングには気品に溢れ高いスーツを着こなす青年がソファーで本を読みながらコーヒーを傾け啜る。見覚えのある高級車で

訪れた。

確か大手企業の社長だと前に訊いた。俺に気づくと本をテーブルに置きおもむろに立ち上がりさわやかな笑みをこぼす。


「やあ、東洋くん久し振りだね。こうして会えるとは」


「はい、ご無沙汰しています。えーと?」


顔や趣味はしっかりと覚えているのだが名前が出てこない、

ベイカーベイカーパラドクス現象

とも呼ばれるものが起きて年かなと考えるが、まだ若いと自分に鼓舞するような事をする。


木戸孝允きどこういんだよ。まぁ腰を下ろしたまえ」


「ここ私の部屋だけどねぇ」


苦笑するエミリーさん。木戸さんに勧められた向かいのソファーに座るとテーブルに置かれた本のタイトルを見て俺は驚きの声を出す。『女子高生と結婚する方法』という犯罪臭が強いものだった。

なんだか俺の事を指しているようなのは考えすぎだろう。ほぼドンピシャで驚き、そんな危険物を優雅に読んでいた事に引いてしまった。


「今日は何をしに来たのかな?」


足を組んで余裕な様子の木戸さん。もう家主みたいな反応にはさすがの俺も苦笑を零せずにはいられなかった。


「三好茜さんに頼まれて。だらしない生活していない見に来てほしいと」


「なにそれ。ひどいなぁアカネちゃんは。子供に心配されるなんて恥ずかしいよ」


「いや、そんなに子供じゃないと思うけど…!?」


エミリーさんの照れ笑いからの言葉を俺は真剣な顔で答えてしまった事に顔が熱くなってきた。

顔を俯いているとエミリーさんの失笑を堪えきれずと「クッフフッ」と独特な声。


「はっ、はは。そうだよねぇ。今年で18になるんだから、そりゃあそうか。いつまでも子供だって思っていたけど」


「はっ!そうなれば告白しても問題がないのでは」


「警察通報とかだけはやめてよ」


告白するって、すごい発想するもんだな木戸さんは。頭痛を覚える言葉と品格が高さを窺える動作の見事に乖離かいりしている。話題を変えようと俺は考える。


「唐突ですけど二人はアニメなど観ますか?」


「私はプロになっていないからリラックスがてらに観ているよ」


「もちろん観ているとも。今期での俺の嫁は増える一方だよ。あっははは。リゼロのペトラが可愛く一途な所は最高だね。それと魔王学院の不適合者ではミーシャとサーシャは最高だよ。はっははは!」


「「・・・・・」」


エミリーさん、木戸さん二人でこんな話を聞かされていたのか。

そりゃあ俺が来たときはテンションも上がるわけか。いや、俺も変人だと思うけどここまでひどくはないと思いたい。


「な、なるほど。木戸さん詳しいんですね。俺もリゼロ第二期が注目していますね。ラノベでは第4部でして多くの謎が分かる重要な所なんです」


ネタバレしないよう気をつけて、俺は発言をする。とくにあれがあれだったのは衝撃的だったものだ。


「へぇー、にぃちゃんリゼロ好きなんだ。私も好きだけけど実はラノベまだ読んでいないんだよなぁ」


エミリーさんは頭を掻いてそう言った。ちなみにラノベのあとがきの後にはキャラクターの次回予告と告知みたいなページがある。それも楽しみの一つ。

それから俺とエミリーさん、木戸さんの三人でアニメを語って尽くすのだった。気づけば日が沈み始めて数分後。時刻を確認すると

夕食を作らないと。


「もう帰るのか。彼女さんにもよろしく伝えておいて」


「彼女?・・・ああ、真奈。はい伝えておきます」


エミリーさんの中では俺と真奈はカップルとなっている。


「なんて羨ましんだ。東洋くん、次の機会に時間があればもっと詳しく訊かせてほしい」


「前向きに善処の検討をしておきます」


場所は変えて玄関を見送りに来た。


「夜道に気をつけてろよ。東洋くんは女子高生にモテるんだから」


「余計な事を言わないの!気をつけて帰ってねぇ」


「ああ、分かったよ。それじゃあ行ってくる」


エミリーさんは思ったよりも明るくてよかったとドアを閉めて安堵して街頭に照らされる静謐の道を

一人ゆっくりと歩くのだった。

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