第278話―夏休みはいつもと違う。社会的にも心理的にも弐―

リビングで俺は冬雅と二人だけで食事をしていた。窓から差し込むのは強い日差しではなく雲が垂れ込む薄暗い日差し。

対面に座る年の離れた女子高生が

愛情を込められ作ってくれた朝食。卵焼き前より美味しい!味噌汁の具はトマトが程よい酸味。

それを味わっていると冬雅の控えめな笑い声がして顔を上げると両手を頬に当てて眩しくなる笑顔。


「なにかいいことあった冬雅?」


「ううん、目の前にいる人とこうしていられる毎日が幸せだけです。

わたしの年齢だと同棲とか出来ないけど、お兄ちゃんならって。

・・・・・い、今のは忘れてください」


「ああ・・・・・いや、そもそも同棲は違うと思うが」


「それよりもお兄ちゃん知っていますか。リモート同棲って?」


頬を赤らめる冬雅はあからさまに話題を変えようとする。俺もそれ以上その話に触れるつもりはないのでリモート同棲に疑問符が浮かぶ。


「いや知らない」


「若いカップルが両親や学校があって同棲できないのをスマホのビデオ通話などで同棲を体験するんですよ」


「へぇー初耳だよ」


俺の学生時代ではカップルが頻繁に使うのはメール。現代になってから多種多様なデートがあるのか。

真奈は知っているのだろうか。知っていても利用しない気がする。


「片方が寝ていても寝顔を見えるようにしたりとかしてリアルな同棲に近づこうとしています」


「なるほど。そんな中身を知っているのは誰かとそらを?」


「いえ・・・・・お兄ちゃん、もしかして嫉妬ですか!えへへ一人も付き合っていませんよ。前に述べたと思いますがお兄ちゃんが初恋の相手だよ」


「それは俺も冬雅を好きだと心からそうだと言っている。かなり遅いけど初恋したのが冬雅だった」


「お、お兄ちゃん・・・」


何かをすがるような甘えるような表情で見つめられる。

そんな反射的に応えたことにお互い見つめ合う事に気づきいつものように目を逸らし何度目かの沈黙が流れる。

冬雅が学校に行き俺はというとニートの身分。なれるか分からないプロの小説を目指すが諦念が日に強くなっていき霧に彷徨さまようような不安があった。

夕方になり弟が買い物を出かけ、

リビングにいるのは比翼だけに。


「おにいちゃん冬雅と結婚した?」


………。けっこん?あの、結婚か!どうして比翼は急にそんな事を訊かれるのか分からない。


「ど、どうしてそう思うのかな」


「…冬雅おねえちゃん何もしていないのにおにいちゃん意識しているから。それはおにいちゃんもそうだから」


「そんな事は――」


比翼は俺を好きだと伝えた。その気持ちに対して俺も素直に伝えないといけないかもしれない。


「冬雅に好きかもしれないって伝えてから恋人ような新婚みたいな流れになっているんだけど、

拙い説明だったけど伝わった?」


すると向かいに座っていた比翼は腰を上げてテーブルを勢いよく叩く。


「本当に拙いけど二人を間近で見ているから嫌でも分かるよ!?それでキスとかは?エ、エッ――」


「まだしていない!」


顔を赤らめて言う所だった所を俺は遮ったついでに立てた推測をはっきりと否定する。

当初の比翼なら言おうとした言葉を平気で使っていたがメンタルが正常に戻っていると幾度と感慨深くなる。ま、まずいなぁ娘みたいに見ているかもしれない。

それを本人の前で告げれば憤激する。


「・・・嘘じゃないか。おにいちゃんに朗報だよ。いぇーい!」


左目を閉じ笑顔のウインク。

そして片腕を上げて天真爛漫を体現する。


「きらーん☆おにいちゃんのお嫁さん候補に一番キュートで年下の女の子がいるよ。

なんと、それはわたし。男の人は若い女の子を好む傾向がある。

歴史の人を挙げるなら桂小五郎かつらこごろうと13歳の八重子やえことか豊臣秀吉とねね、世界三大美女の一人に数えられる楊貴妃ようきひ李瑁りぼうや奪われることになる玄宗げんそうとか」


豊臣秀吉はともかく桂小五郎の方は30代で結婚し一般人として生きていこうとした。長州藩に戻るようにと幾松いくまつに説得され結婚した相手に桂小五郎を支えてほしいと離縁した。ちなみに幾松は後の木戸松子きどまつこ

楊貴妃は・・・味方同士の内輪もめで城を奪われたと兵達の反乱に王は止めると自分の身も危うくなると考えたのか処刑となった悲劇の美女。歴史好きってよく詳しい時代だと饒舌になってしまう。

なら趣味が同じで好きだから意気投合すると考えられるが実は情熱や向けられるものが微妙に齟齬そごが合わず衝突する事が多々、それと知っているからこそ億劫のもある。

比翼は返事まちで間違えると語り尽くすことだろう。


「年の差はあるけど、それは習慣とか結婚下限など大きく違うわけで現代で比較するのは違うと思うんだ」


真面目に考えて浮かんだ言葉をしてみて俺はJCに向かって何を言っているのだろうと呆れる。


「それはどうでしょう。長い時代で、わたしのような年の女の子と結婚する20代の人は多くて仲睦まじいなんて記録という歴史のあとがある!」


「そうだろうけど。えーと要するに結論を言うと?」


「美少女の中ではライバルよりもアドバンテージがあるのは一番に若いのがわたし。そんなわけで

デートしよう!ここでピース」


右目を閉じたウインクの方に横向きのピースするアイドルようなポーズ。あざとくアピールするのは

落としにいこうとしているからたろう。


「急すぎないかな。デートと言ってもどこにいけばいいのか分からないのも含めて自粛ムードでもあるし」


自粛ムードだから理由は偽り、本当は比翼に感染しないようにと思っている。治っても後遺症が残るデメリットを考えれば外を出るのは極力と避けたい。


「そんなの家でやればいいんじゃん」


そんなわけで家デートをすることになった。その方が援助行為とか

侮蔑な眼差しを向けないで済むから楽だけど。それを考えたら、

ほぼ犯罪者みたいな思考だな。

そんなふうに考えてしまうのは奇異な目など少し苦手意識と居心地の悪さもあるから。

冬雅をラインで見ると今日も帰りは遅れて真奈達も動用。弟の移山は眠たいと理由で買い物を済ませると2階に行って就寝。

俺はリビングでデートに相応しい格好と着替えるよう促され部屋で着替えるとリビングに降りる。

着替える前に、終わったらここに戻って待機するように言ったのを振り返る。リビングからドアが音を立てて開く。


「おにいちゃんーー、お待たせ」


比翼の格好はシンプルで可愛らしいものだった。スカート部分がフリルの白のワンピース。そして麦わら帽子を目深まぶかかぶっている。浮かぶのは

都会から田舎に来たオシャレな女の子。


「いや今、来たばかりだよ。

今日はどこに行こうか?」


明るく手を振る比翼に軽く手を上げて定番の言葉で返す。


「うーんと。映画館に行こうよ!」


満面な笑みで言う比翼は俺の腕に抱きついた。帰省した都会の女の子イメージ。そしてここは俺のリビングでどういう風景なのか想像が難しい。いや、今日は小説の取材とかじゃないのだが余計そのような事を考えてしまう。

比翼は擬似的なデートを可能な範囲で再現しようとしてリビングを出て一階の廊下などをぐるぐると 徘徊する。

歩いて抱くのは俺達は何をしているのだろうかだった。そしてソファーに肩が触れる距離で座る。

ブルーレイレコーダーからディスクを入れて再生する。いわゆる映画館の代わりと考案したようだ。

そろそろ電気をつけないといけない時間なので照明器具シーリングライトの明かりをつける。


「てへへ。なんだか久し振りに二人きりでドキドキして楽しいよ。

おにいちゃん」


「二人だけならいつもじゃないかな?」


「ちがいますぅぅよ。こんな雰囲気の中で一緒なのが久し振りだって意味なの。分かってよ」


「そ、そうだね」


いや分かるかぁぁ!?内心そうツッコミを入れたりして映画を観賞する。

暗い中で見るわけでもなく、大音量とかもないが一種の遊びのようで楽しく感じれた。


「ふわぁー見終わった」


「んぅー。そうだな」


お互い腕を高く伸ばしての伸びをする。普通に夢中になって観てしまった。やはり何度も観ても面白いなぁこえの形は。

琴線を触れる良作品は間違いない。


「おにいちゃん無茶なわがままを答えてくれてありがとう。

なんだかスッキリした」


「そうか。楽しかったし、またいつでも付き合うよ」


「てえへへ。照れるなぁ、それ。

おにいちゃん楽しかった。

わたし少しだけ前を向けられるようになったよ」


比翼はソファーの上に星座をして

身体ごと俺に向け真っ直ぐと顔を見上げる。真面目な顔をしていて

目標のようなものを抱くような何かがあった。


「秋ぐらいになったら、わたし相談窓口に電話して現実と向き合おうと思っています。だから、その間まで、おにいちゃんと一緒にいさせてください」


「比翼・・・」


想像したよりも大きな決断だった。被害にあったらどうするかは明るく傷ついた過去をもがき苦しまないよう気をつけて教えたこともある。いつか比翼は保護されるのだろうか。どこまでしてくれる

か分からないか俺は比翼の頭をゆっくりとでる。


「えっ、おにいちゃん!?」


「どうなろうが俺は比翼の味方だよ。それに俺が誰かと一緒になっても比翼は家族だって思っている」


「ッ――!?おにいちゃん、うわああぁーーー!!」


胸に飛びつき嗚咽を零す比翼。俺は泣きじゃくる比翼に言葉ではなくで続けて心が癒やすまでするのだった。

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