第277話―夏休みはいつもと違う。社会的にも心理的にも―

「た、ただいま。お兄ちゃん」


外は闇色と移り変わる19時、ドアを開けると玄関先にげんなりとする冬雅が足枷しているかのような足取りで玄関マットに腰を下ろした。


「なんだか疲れているね。何かあった?大丈夫か」


おかえりの言葉よりも先に質問で返した事に少しの罪悪感を覚える。二人で話し合って決めたのだが、取り留めのない会話にした

約束。いわゆる軽い約束をした

のだから覚えていない可能性もあるが勇気を振り絞って出た言葉

なのかもしれない。

いや、先ずは目の前の事を。


「はい、平気…です。塾が終わって早く帰るつもりでしたけど思ったよりも長くなってしまいまして。

受験生だから融通ゆうずうが効かないのも変ですけど、会える時間が減るのは悲しいですから急いで帰ったら少し疲れました」


「冬雅・・・・・汗をかいているだろうからお風呂を沸かしておくよ」


「うん!」


7月になっても冬雅の学校では夏休みに入っていない。休校を余儀なくされた遅れを取り戻すため方針で今年の夏休みは短縮、

楽しみが減っているのは間違いないだろう。冬雅を連れてリビングに向かう。


「あれ、そう言えば比翼が迎えてきてないけど何かありました?」


「ああ。比翼なら今は眠ているよ。昼の運動の疲れで」


やる気に漲る比翼を筋トレをしているのを隣でいつものトレーニングをこなしている俺は訝しんで

いたが、お腹を何度も触っているのを見て急な張り切ったことは

分かった。体重を気にしているのを本人が口にしないのに俺が

言うわけにはいかない。

手洗いを済ませリビングルームに入り文明の利器の一つであるクーラーの前に一直線に行く冬雅。まぁ、この急いで帰宅すればそうなるか。


兄者あにじゃそんなところ立っていないで未来のお嫁さんと話とかしたらどうだ。

疲れが取れるだろ」


疲れを誰を指しっているのか長年と会話しているので大体は理解は出来る。

弟の移山はキーボードの打鍵音を止めてそう提案するのは、冬雅の

疲労回復は俺と取り留めのない会話で効果があると。ビジネスマンとしてつちかった交渉の

慧眼はそう捉える。

それに俺もそうだと魂が告げている。


「そうだな。そうする」


「んっ」


さてどう話を切りだそうか。

考えてみたがやはりこれしかない。


「夏休みはいつから?」


「えっ・・・・・そうですねぇ。8月8日から始まって期間は16日までの23日に終わってしまいます」


横に立って質問したことに最初は驚いていたが、すぐに笑顔で応える。だけどその笑顔は途中からかげりが差していき、顔を伏せる。そんな寂しい顔をして

心が痛くなる。


「あはは。お兄ちゃんといっぱい遊びたかったですけど・・・仕方ないですよねぇ」


「そんなことは・・・無い」


「そうですよねぇ。少し暗い話をしてしまってごめんなさい。

最後の高校生にとっての夏休みだから・・・・・こんなことには」


おそらく色々と計画していたのだろう。デートプランは冬雅が決めたりするのが多い。大人として女子高生にそこまで面倒をみるのは

些かいかがなものかと自責の念はあるけど、それでも冬雅の笑顔を

見ていたら俺達の間ではそう

なのだろう。理想的とか一般的などと照らし合わせて近づいて形にする。彼氏ならやるべき事を彼女はするべき事をすれば今どきの恋愛へとなる。そんな価値観を壊したのは冬雅だ。

在るべきことではなく相手を想って何をするかという単純明快でそれ以上ほどない納得させられる力を見せられた。いや、体験したが適切だろう、こういうときは。

毎日の告白をしてきた冬雅だからこそ。


「時間と想いは比率しない」


「お兄ちゃんどういうことですか?」


「短くても、毎日どこか出かけよう。夏休みにはスイカを食べたりかき氷で頭痛を味わったりもしてみたいなぁ。それと全員で海を行ったり花火をしたりとか」


「ど、どういうこと!?

お兄ちゃん少し落ち着いて、整理してから話そうよ」


冬雅は俺の思いつた言葉をただ一方的に喋ってるのを戸惑っている。

これは俺がやるだろうなと想像も含んでいる。めちゃくちゃなそれを纏める自信がない。そのまま走り続ける。このまま。


「そんな慌てふためく怒涛のイベント連続に疲れて、冬雅と二人だけの時間が訪れると甘酸っぱい空間が作る。それで俺が回避しようとして冬雅は吶喊とっかんして何かが起きる。

それに冬雅の水着を見たいと願望はある」


「・・・・・お、お兄ちゃん!?な、なな、何を言っているの!!

わ、わたしそんなに魅力ないですから」


頬を赤く赤くどんどん赤くなっていく冬雅は手を激しく横に振り

否定をする。


「いや、あるよ。自分で言うのも痛いけど俺はどんな美少女でも心は動かなさい難攻不落だって

自負している。

冬雅はすごく魅力!!」


「なんだか変だよそれって!?

お兄ちゃんがかわいい女の子が近づいても振り返りもしないのは、わたしがよく知っているよ。

あ、あと!わたしの事はいいです。お兄ちゃんがすごく魅力です」


なっ!?まさかここで俺の魅力を口にするのか。どうなるかなんて

考えたくないけど焼かれるような羞恥心に悶えるなら阻止しないと。


「それは見当違い。冬雅の魅力は朝まで語れる自信はある!」


「お兄ちゃんには負けない!!

わたしの方がお兄ちゃんを愛している気持ちは上だよ。

先に優しいところですが、話を最後まで聞いてくれること一つ。

健康も考えてくれるのもポイントが大きくて2つ。

励ましてくれるけど、上手くないのがかわいい3つ」


「残念だけど話を中断させてもらう。冬雅の魅力だけど一つ目は

眩しい笑顔と温かい信頼を向けられるとき。2つ目はライバルが相手でも憎まず心配も出来る心。

3つ目は隣にいて落ち着ける所とか4つ目は明るくさせる会話術」


「ま、待ってお兄ちゃん。堪えれません。そんなにべた褒めさせると恥ずかしすぎるよ」


「あ、ああ。ごめん冬雅」


俯いて耳まで赤く染まる。ちょっと熱くなって冬雅みたいな言動してしまった。これか人を好き

になる勢いってものか。移山の方へ振り向くと椅子にもたれ、うちわをこいで苦笑していた。

クーラーで涼しいはずなのに心と思考はなかなか冷める気配がなかった。

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