第272話―毎日告白されて一年分の想いを―

まだ、なかなか夏の風物詩を見ない7月下旬に俺はいつもよりも遅めの買い物に向かう。

まさか比翼と漢検3級が主の過去問の本をひたすら解いた休憩で遊んでいたら時間があっという間に夕方の時間となったのだ。天気が

曇天もあって気づけなかったのもあった。

頑張った比翼のご褒美はこれぐらいにエコバッグを持って最寄りのスーパーで買い物を済ませての帰り道に冬雅の背が見えた。


「あの子、可愛いよな」


「ああ。元気なのも最高だけど声を掛けようにも釣り合わないじゃないのかって諦めてしまうんだよなぁ」


路傍ろぼうの人からも振り返って見惚れてしまうほど美しく

、また容易に近寄り難さの存在感を放つ。改めてそう認識をする。

前ならそうだろうかと疑問を抱いていたけど今なら少しだけ理解できる。

俺も少なからず冬雅を思っているから少々たじろぎそうになる。

それ以上よりも驚きなのは凌駕りょうがしてしまうほど話したいシンプルで明確的な気持ち。


「こんなところで奇遇だね冬雅。迷惑なければ一緒に帰らないか?」


早足で行くが冬雅も早足。仕方なく小走りで追いつくと隣に並行する。


「お兄ちゃん!?も、もちろん大歓迎ですよ。ずっといてください」


「はは。冬雅らしいね」


「はい。わたしらしいです。お兄ちゃんとこうして帰路に就くのは同棲ばかりのカップルみたいですねぇ」


「それは同意しかねる。あー、ごめんソーシャルディスタンスを保たないといけないよな」


「そうですねぇ。――そうだ。お兄ちゃんこうすればどうでしょうか」


冬雅はエコバッグの手提てさげホルダー(取っ手)を俺の指を器用に触れないよう握り一緒に持つ。


「こうすれば距離は保って心の距離は近いです」


「ああ、なるほど。んっ、いや別に突っ込む所はないか」


「お兄ちゃん、わたしの言動がすべてツッコミとかじゃないですよ」


それもそうだろうと自分でも思った。オレンジのマスクの冬雅は

袖やスカートの丈が短めの夏に適している制服。そうなれば周囲は

淫行とか誤解するだろう。


「それにしても世界も不思議。

ここまで兄妹が違うのか」


「別に珍しくはないんだけど。

俺もそう思う」


「だな」


通り過ぎるリア充な大学生3人が、俺と冬雅を見てそう話題をしていた。な、なるほど一緒にエコバッグを持つと兄妹に見えるかもしれない。怪しい関係でこんな

日常生活みたいなのないからなぁ。


「えへへ、お兄ちゃんと兄妹だって思われていましたねぇ。

的中していて驚きです」


「的中じゃないでしょう。お互い仲のいい隣人なんだから」


「・・・う、うん。仲のいいって思ってくれた。あっ!お兄ちゃんあそこを覚えていますか?」


「あそこ?」


指を向けられる方向には、ただのT字路が見えるだけで猫が居眠りしているとか花が一輪だけ咲いているとかもない。端的に言うと面白くもない道になるわけだが。


「ここで、お兄ちゃんとわたしがぶつかってお互い真正面で話をしたきっかけの所です」


気づいていない俺を冬雅は答えを言う。


「ああ、それなら覚えているよ。

ただ誤ってお互い去ってしまったけどね」


「それでもです。あれが無かったら一生わたしは孤独感を持ったまま誰にも相手をせずにいたと思います」


後ろを追う形で歩いている俺は分からないけど寂しげな表情を

浮かべているのは容易に想像できる。

そんな事はないと言うつもりが口はつぐんでしまう。

まるで意志と別の意思が争うみたいに。


「・・・それでも孤独じゃないはずだ」


出てきた言葉は、それだけで冬雅の過去をよく知らない俺は強く踏み入れないないのがあるかもしれない。無知で蒙昧もうまいな俺が安易な言葉をしていいのか。年が離れていて親しい関係なのか俺にも分からない俺がそれを言っていいのかと。


「はい。お兄ちゃんの言うとおり孤独じゃなかった。ママとパパは近くにいないほど忙しくて愛情が深かった。わたしが想像していたよりも・・・一人だとつい悪い方向に考えるんです」


それはなんとなく理解はできる。

T字路の左に足を止めると冬雅は振り返り俺を見上げて見つめる。

そこには憐憫れんびんな思いを抱くことない憂うことない

微笑んでいた。それが俺だけなのかなと思うと恥ずかしくなり目を逸らして戻すのに7秒は掛かった。


「お兄ちゃん顔が赤くってかわいい!コホン。えーと話を戻すますねぇ。

長く一人でいると悪い方向へと行くんです。止まることなく、

ネガティブになるのはそう掛かりませんでした」


「ネガティブ!確かに前はそんかマイナスを醸し出していたが今は第二の太陽みたいに明るいからかな。場合によっては本家レベルの太陽」


「えへへ、そうでしょうか。いくらでも照らしてみせますよ・・・っと話を折らないでくださいよ。

わたしのネガティブ思考は孤独であると、愛されていないなんて

進む。わたしが勝手にそう思い込んでいて両親に問えば愛されているのだと気づけるけど拒絶されれば怖くって言えなかった。

そのうち笑顔の仕方が分からなくなりました」


笑みを見せずに長々とそう話す冬雅。きっと、知ってほしいのだろう。それが何かは知らないが静かに傾聴しよう。だけど真剣に語るのはともかく暗い表情を浮かんでばかりだと言葉が頭の中に浮かんでくる。ボソッと俺は呟く。


「冬雅の笑顔は好き」


「お、お兄ちゃん!?あの、ありがとうございます。えーと、わたしもお兄ちゃんの笑顔は素敵ですよ・・・えへへ。

あ、後で愛を育みましょう。

話の再開します。勢いでしたわたしの悩みをお兄ちゃんは真剣に考えてくれて荒唐無稽な話もそうでした。トドメは時々みせる

拙いのにかわいい笑顔です!」


拙いのか、自覚していたけど冬雅が言うとダメージが大きい。

腕を上下にシェイクするように動いていて冬雅からすればポイント高いのだろう。一緒に帰宅するはずが思い出を話して様々な喜怒哀楽を見ることになるとは。

ここで比翼や誰かが来てくれるけど自宅ではないので止める人がいない。


「そうか。なるほど、そうなのか。それじゃあ、そろそろ帰るか」


「お兄ちゃん今日だけは付き合ってください」


目を潤わせて上目遣い攻撃。はい、拒否権は消えました。


「えへへ、ここに来るのも懐かしいですねぇ。お兄ちゃん」


断る選択が消滅されてしまい結局は思い出ツアーと巡りとなりました。

ちなみに「分かったと」返事をすると冬雅は語り始めると目から水滴が落ちて「実は目薬でした!」っとカバンから目薬を慌てて出すが明らかに涙の方が早かったとか指摘せず騙された体でリアクションを取った。現在は場所を公園に変えてベンチに座りしばらく夕陽を静かに眺める。


「お兄ちゃん相談があるんですけどいいですか」


「ここに来ればそうなるのは必然かな。

いいよ、どんな悩みでも俺なりに答えてみせるよ」


「実はですねぇ。大学進学は、ここでいいのかな思って」


カバンからパンフレットを出す。

今日その話をするつもりで持ってきたのか、それとも話す機会が見つからなくてカバンに入れたままなのか。パンフレットを受け取り

様々な大学の情報がある。


「わたしが入りたいのは、ここなんですけど」


「ほうほう。正直あまり詳しくないけど良いと思うよ。それで悩みは?」


「えーと、第一志望ではそうなんですけど本当にここでいいのかな?って迷いが生じて・・・」


「なるほど。なら消去法で答えてみよう。もしここに入るメリットとデメリット。他の大学に入って比較して。そして、やりたいことはそこにあるかを」


ここまで悩んだ事ないので俺の言葉に力があるとは思わないが、

大事な冬雅のために全力で正しい選択を出来るようにと足りない分を補うつもりで頑張った。

消去法という事でいいのか思ったがこれぐらいしか思いつかなかった。長く相談していたら黄昏から街灯が照らす夜となっていた。


「ありがとうございます、お兄ちゃん。悩みが吹っ切れた気持ちです」


「それはよかった。けど遅くなってしまったなぁ」


「ですねぇ。早く帰りましょうか」


急いで家に向かう。冬雅は気宇壮大きうそうだいな夢を持ってもおかしくないほど実力を持つ。それは描き始めたばかりのイラストもそう。こうして夜で二人だけ歩くのはあの頃みたいで懐古に触れる。帰宅すると比翼が居室から出迎える。


「遅い!何をしていたの二人とも。どうせデートとかデートとデートだと思うけど」


「ごめん。少し色々とあって」


「ごめんねぇ。わたしの相談事で長くなってしまったの」


「詳しい事は後で聞くから。

とりあえず手洗いゴー」


比翼の指示に従って手洗いを済ませて急いで夕食を作り始める。

調理が長くならないトマトリゾットと味噌汁を作り終えて皿に移してテーブルに並べる。

そのまま席について手を合わせて「いただきます」と告げる。食べ終えればいつもと変わらぬ生活。

そして翌日の早朝リビングに入ると。


「おはようございます、お兄ちゃん!」


「おはよう冬雅。連続で普通の挨拶だね」


「やっぱり、おはようが最強かなって。えへへ」


なんとなく理解できる。俺も同じ気持ちだ。本人の前では決して伝えないつもりだけど。すると冬雅は俺の手を引いてどこかへ向かう。突然だったので驚いた俺は尋ねるのに3秒ほど掛かった。


「冬雅どこに?」


「玄関です」


玄関?一体なにがあるのか警戒していたが何もない。いや、当然なのはなのだけど慌てて腕を引っぱていけば何かあると思うものだ。

少し拍子抜け、少し何かがあったのか思い冬雅を何かを言う前に先に発した。


「思い出ツアー最後。お兄ちゃんとわたしが告白して振られて、

始まった場所」


夜間遅く冬雅がインターホンを押し玄関を開けると告白された。それが去年の事だから感慨深いのか

時の流れが早いことにおののくか。


「そうだね。お互いのためだと思って俺が断って冬雅が号泣したんだな」


「な、泣いてないもん!それにお互いのためじゃなくて完全にわたしの為だったと思います・・・たぶん」


口を尖らせて恥ずかしい言葉を簡単に口にする冬雅だけど、言い終えると顔を赤く染まっていきうつむく。

俺も顔の温度が火で上昇してしていくようになる。


「「・・・・・」」


沈黙が生まれて何を発するか分からなくなる。エプロンと制服した冬雅は顔を上げて視線はドアに向ける。


「じゃあ、お兄ちゃん再現しましょうか?」


「えっ?やるの今」


「はい。エプロンを脱ぐので待っててください」


リビングに戻りエプロンを脱ぐだけだったからすぐに戻ってくる。


「それじゃあ、やります」


ローファーを履くと外に出る。

インターホンの音が鳴る。冬雅は有言実行した、ならやるしかないと俺は無限実行する。ドアノブを開ける。


「す、好きです。大好きです!!

その、あの・・・わたしと付き合って

ください!!」


冬雅の最初にあたる告白。


「・・・はうぅぅ」


応える前に、恥じらいの声を漏らすのも再現をするのかと俺は変な畏敬の念を抱く。ここまでやるのかと。


「ありがとう。私に好きになってくれて、嬉しいよ正直に」


「そ、それじゃあ!」


「・・・ごめん」


「・・・え?あの」


「付き合えない。俺は大人で君は高校生。なりよりも、その好きは

きっと勘違いのはずだよ。

えーと、その後はここまで年の差だと失敗するよ」


「お兄ちゃん違いますよ。少し前も若干に違いもありますし。

ともかく続行。わたしが振られて泣いてしまう場面に」


残念なことに一語一句と覚えていなくて悪い。どうやら続けるようだ。


「うわあぁぁーー!山脇さんひどいよ。うぅぅ、ああぁぁーー」


あれ?冬雅も前と泣くのが違うと思うけど・・・いや、そこまで再現するのは無理だ。天が貫くような高さじゃなく配慮した声。

そして肝心なのは悲壮感など、どこにもないのだから。

だから俺はここで過去ではなく今の返事をしようと決めた。


「ここが去年だけど。今の俺は冬雅を好きだと思う」


「うわぁーー・・・お、お兄ちゃん!?い、いきなり告白はズルくないですか。嬉しいですけど、

心の準備がまだ言うのか」


その反応されると重ねるように羞恥が増すのだけど。ともかく止めずに言葉を紡いでいく。


「もし、先みたいに告白したとしたら・・・これが本当の好きなのかしばらく待ってほしい。

大事な冬雅を好き気持ちは恋愛は3年説をくつがえして、確信してから言いたい!」


「お兄ちゃん・・・うん。待っているよ。お兄ちゃんが強く大好きって言える日まで」


冬雅の綺麗な頬は白皙はくせきから赤く変化して、涙ぐんでいた目には返事をすると頬に伝っていき下に落ちていく。

壁が険しく見えた年の差の恋愛は俺と冬雅の間にはそうでもなかった。二重城壁でもなく少し力を入れた跳躍で飛び越える小さな壁だったようだ。

年の差の場合は難しい恋愛。

冬雅が毎日と告白されて変化はあった。俺も冬雅を想うようになる。

必ず結ばれる。叶えられる。

俺と冬雅は・・・

こんなにも相思相愛なのだから。

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