初々しい夏デートと避けられぬ現実

第273話―俺は普通に思う。JKとイチャイチャするのは危険と―

俺はその場の流れで迂闊な行動をしないと自負していたが過去形となった。

まったく山脇東洋やまわきとうようは28歳にもなってJKの全力好意に陥落するようなやからだったのか。否、それは無いと主観的にあるが結果と客観視すればそうでもない。

そんな自分を起きたばかりの寝癖を軽く整え、夏は気持ちのいい水で顔を洗う。洗面台での鏡に映る自分はいつもと変わらないインドアの証の肌が白い。


「ハァー。まずいなぁ」


呟くのは昨日の事。峰島冬雅みねしまふゆかに刺激され告白まがいな発言をした。

それからは中学生かなんてツッコミたくなる会話が続いた。蛇口のコックをひねた方を逆方向から力を加えて水を止める。


「あっ、お兄ちゃんタオルです!」


「ありがとう冬雅…?どうして俺の背後にいる!?」


「えへへ。だれーだ?もやろうと思ったんですけど恥ずかしくて

タオルを渡すシチュエーションをやりたかったという純粋にやってみたいかなって」


「理由になっていない気が…ともかく、おはよう冬雅」


「うん!お兄ちゃんおはようございます。今日も、わたし幸せでもう満足です。えへへっへ」


「そ、そうなのか」


光沢を帯びる長い黒髪は腰丈まで伸ばしている。過去に凍えそうなほど静かな瞳だったが今は照らさせるほど穏やかに微笑むような目は女神のごとく。

その美貌は雪をあざむく白い肌、笑顔を絶やさず魅力的で

眩しく感じることは何度も起き慣れない。

そんな二度見からは言葉を失うほど美少女は俺を惚れさせようと遮二無二しゃにむにと奮闘している。

それは衣装を余念がないことも含む。

今の冬雅は涼しそうな橙色のドレスで装いを凝らす。露出は控えめで素材からして安くはなさそうなのが詳しくない俺にも見て分かる。

視線に気づいたのか冬雅はスカートの両裾を持ち上げて軽く会釈をしてみせた。


「どうですか?一時間程度ですけど練習してみたのだけど」


「あ、ああ。少しだけ見惚れてしまった」


「…そ、そうですか。少しだけ嬉しいかな。うん」


「「………」」


「こほん。朝から何をイチャラブついているの二人とも」


「うわぁ!」


「きゃー!」


ドアの前に仁王立におうたちして睨むのは箙瀬比翼えびらせひよ14才の女の子だ。

再婚した相手に強姦ごうかんされてしまい母親は恐らく見てみぬふりをしていると思われるがその辺は比翼に聞いていない。

危機感を持った比翼は家出を決意する。

こういう問題が発生した場合に警察に通報すれば良かったのだが、そんな選択が出来る事など知らず育ってられていたか頭が回るほど焦燥感に駆られていたと思う。


「ひ、比翼おはよう今日もいい天気だよねぇ。えへへ」


「おはよう冬雅おねえちゃん。

笑っても誤魔化せないから、近すぎるの。とくに物理的ではない距離が。特に二人を見ていると、遠慮なければ近憂きんゆうありって不安になるし」


「うわぁー、そんな難しい言葉の使い方を出来るようになったんだねぇ。偉い、偉い!」


「むぅー、色々と心配しているんだよ。わたしは!」


遠慮なければ近憂なし。遠い将来を見越した考えを持たなければ、いずれ目前に最悪が起きるという教訓の言葉で故事・ことわざに載っている。

冬雅は難しい言葉を知っているか分からないが比翼を安心させ

ようと行動に出たのは一年と少しの付き合いで漠然と理解した。


「万が一にもお兄ちゃんと付き合っても比翼に寝取られる?かな。

そんな展開もあるわけで、長い宿敵であり仲良く暮らしているよ。

あとは、お兄ちゃんがわたし達の想いを踏みじるような事はしないし、逆に良い雰囲気になっても壊そうとするから」


「あ、あれ?耳がおかしくなったのかディスられていないかな俺・・・」


寝取られ単語なんて、どこに覚えているのか問い質すかと思っていたら甘酸っぱい流れを逸らそうとしているのを知っているようだ。

いや才媛である冬雅が気づかないわけがないか。


「ふ、ふん。そういう心配していないから。おにいちゃんがそんな人ならわたしの心は再起できないほど壊れていたよ」


「そんな事はないと思うよ。比翼は強い子だから」


「あぁー!一々と肯定と称賛の言葉がスゴイからやめてえぇぇ」


家出をした比翼は、泊まるための所持金がなく選択したのは最も忌むべきもの。

自らの身体を・・・。理不尽な扱いをされ万死に値するほどの事をした奴等を許せない。そんな気持ちは奥に仕舞込む。表に出し感情的になり比翼にまでぶつけないように。

比翼は中学生でまだ繊細なのだから。たまたま繁華街で比翼が怪しい大人に楽しそうに歩くのを見て俺は知り合いな振る舞いをして助けた。もし比翼が震えたいなかったら素通りしていた。

当初は俺も汚い大人として見ていた。あの時はよく覚えている。


「フッフフ、これぐらいで勘弁してあげよう比翼よ。さて、わたしは朝食を準備に戻るねぇ」


「傍若無人のラストJKめぇぇ!

むぅ、おにいちゃん頭をナデナデして」


「えぇー。食べ終えてからでよくないかな?」


「駄目。冬雅おねえちゃんが見ている前だと、おにいちゃんが緊張して気持ちよくないから」


「そうなのか。分かったよ」


「わーい、おにいちゃん愛している」


そんな軽い感謝を吐けるように懐かれてしまっている。会ったばかりの比翼を家を泊まらせる事に俺は決めた、まぁ常識に考えて冬雅の家だ。

普通に成人男性の家を泊まらせるほど俺は非道ではない。結局は俺の家でかくまう事になった。

俺達の間では義理の妹であるけど。


「うひゃ。てへへ、気持ちいい!」


(こうして無邪気に笑っているのも年齢が近い冬雅達のおかげだろうけど)


冬雅に髪を整え方など伝授されてから最初ときよりもキレイになっている。

まぁ、くせ毛のようなウェーブがかった長い黒髪は治っていないが

似合っている。撫でるとぴよーんとバネのように戻るのが面白い。


「おにいちゃん、わたしが大きくなって誰も結婚していなかったら、わたしが結婚してあげるから」


「気持ちは嬉しいけど。大事な事だから簡単には決められないかな」


パチリとした純粋無垢な大きな瞳を上目遣いに俺は微笑して答える。

もし冬雅が好きになっていなかったらドキッとしていたと思う。

それに結婚の話は俺には身近でも冬雅や比翼には遠く現実味がない話だと思う。


「し、真剣だから!おにいちゃんと結婚したら・・・このままずっといられるから。それじゃあ先にいくねぇ」


「あ、ああ」


答えを返す前に恥ずかしくて限界に達したのだろう逃れるように

冬雅がいる居室に走っていく。

けど、数分もかからずに顔を見ることになるわけだが。

冬雅に抗っての行動なのだろうかは俺には推測しか出来ないが

俺も比翼とは一生このまま暮らしていたとは心の奥からそう思っている。

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