第264話―家デート後輩キャラになった冬雅2―

いつもといる人が後輩になりきってしまうと突然変異に近いうんだと現実を軽く乖離かいりさせる。

時刻は21時に後輩になった?二人の勉強をしていた。ちなみに

弟の移山はソファーに座ってスマホを弄りながらバラエティー番組を見ている。一時間前の食事に先輩と後輩の関係にかなり驚いていたが事情を説明すると逆にこちらが驚くほど理解してくれた。

冬雅の突飛のなさには耐性がついた。

いつものPCで執筆していた俺は軽く腕を上げて伸びをする。

冬雅は受験中なのに俺といて邪魔にならないかなと考えてコーヒーを飲む。


「なぁに他の女の子を見ているんですか先輩?」


隣に座っていた比翼からの白眼視はくがんし(しかし口角がやや上がっていて冗談なのだと)。


「それは前に座っていればね。

座る位置が違っていたら見ていないと思うよ。うん」


「だ、そうですよ冬雅おねえちゃん」


「えっ!?集中していたから話を聴こえなかった・・・かな?あはは」


最後の疑問系はどういう事なのか問いたいがやめることにした。

声はいつもよりも小さく落ち込んでいるのが明確だった。勉強が捗っていない素振りはなかったので、おそらくは俺の言葉が原因だろう。


「少しいいかな冬雅」


「はい。なんでしょうか先輩お兄ちゃん」


名前を呼ぶとすっかり元気な笑顔を見せる。それが心からの感情とリンクしているのか?言い換えれば無理していないかと思った。

しかし訊いてみたものの何を言えばいいか分からず考える。

伝えたい気持ちはあっても具体的に言葉をするには迷いくすぶる。


「・・・・・・・・・・わたしからいいですか先輩お兄ちゃん」


「あ、ああ。どうぞ」


「かわいい後輩のために先輩お兄ちゃんの膝の上に座りたいなぁって思うんですけど。

だ、駄目でしょうか?」


恥じらいながら上目遣いは反則だと思います。呼び方だってちょっと違うだけで鼓動が高まる自分の単調さには呆れてしまう。

悲しい事に目が止まらず上と右と上を繰り返し泳いでしまっている。

バン!と両手を机に振り下ろし椅子から立ち上がった比翼。


「先輩はわたしだけのものです。だから先輩・・・わたしを好きになった責任を取ってくださいねぇ」


比翼はニコッと顔を絶妙なあざとい角度に傾き笑みを浮かべていた。だけど眉のあたりが小さく揺れていて怒っていた。

行動に移る。俺に近寄り椅子をグイグイと引く。強引に引くのではなく下がるようにと意味なのだと分かるまで数秒ほど掛かった。

行動だけで意図を読むのは困難だよと心の中だけで指摘はした。


「先輩は、わたしだけのものですよ」


比翼は俺の膝の上に座る。ここ最近はしていなかった。ドキッとしなかったけど比翼の方は羞恥心で落ち着かずに、もじもじと動く。


「うわぁー、羨《うらや》ましいなぁ。比翼かわいいよ」


「茶化さないで冬雅おねえちゃん!まったく嫉妬しないなんて正妻オーラ半端ないにもほどがある」


「そ、そうかな?えっへへ、先輩お兄ちゃんの正妻か・・・えへへへ」


「冬雅おねえちゃん残念だけど正妻には無いから」


冬雅が正妻という言葉に著しいにもほどがある照れ笑い。意中の相手が見ているのに隠そうとしない。いや、告白を毎日としている現状況でそらは今さらであるか。

一日の疲れを取ろうと床につく。

俺の部屋ではベッドに眠るのは冬雅と比翼の二人。俺は昨夜と同じく布団を敷いて就寝。

微睡みから現実に帰還する。布団から出て顔を洗い電気をついたリビングに入る。


「先輩お兄ちゃん、おはようございます。今日も雨だけど、わたしの心は晴れやかなんて。えへへ、ちょっと恥ずかしくなりました」


駆け寄ってくる学校の制服にエプロンをした冬雅。雰囲気だけなら

彼女のように見えるから俺は病気なのやもしれない。それはともかく今日も朝早く起きていた。


「おはよう冬雅。今日も元気だけど無理はしていない?」


「無理していませんよ。お兄ちゃんと二人きりなのが・・・えへへ」


先輩と付けるの忘れてしまっているほどテンションが高い。

本人が強くそう言うのだから俺の誤解だろう。だけど、試してみないと分からないのもある。

そして今は二人なのを活かしたい。


「そうだね。冬雅よかったら膝枕して静かに少しだけデートしないか?」


「そうですねぇ・・・・・えぇぇ!?」


意外すぎる一撃に冬雅は瞠目する。何度も間違いじゃないのかと言葉の反芻はんすうを繰り返し視線を上に向いていた。

おそらく俺が何か行動にしないと何もしないのかもしれない。


「無理強いはしないよ」


「い、いえ!やります。お兄ちゃんからデート誘うなんてドキドキして夢のようです」


予想以上な反応をするのが想定内なんだよね冬雅の場合は。

俺は苦笑してソファーの右端に座る。


「さぁ、どうぞ」


「・・・えっ?わ、わたしの膝枕って意味だと思っていたのだけど」


「その逆は、なかなか無かったから。たまにはね。どうかな?」


「は、はい。お兄ちゃん」


冬雅はゆっくりと膝の上に頭を置き身体全体をソファーを余すことなく横になる。冬雅は横向きなのとテレビが視聴できる向き。


「それじゃあ安らげるようにクラシックでも流しておくよ」


「安らげる?クラシックですか」


俺はスマホを音楽アプリからG線上のアリアを何度も流せるよう設定してローテーブルの上に置く。

「知っている曲です!」生前では売れなかったバッハの名曲。

亡くなってから子供達により有名になった。そして田舎で活動していた作曲家。


「・・・先輩と後輩でのデートしますねぇ」


「ああ」


「先輩お兄ちゃんは、もう少し相手をしてくれないといけません!わたしが寂しくならないために」


「いくらでも相談はする。冬雅には寂しい気持ちを少しでも和らぎたいと思っている」


最初に話をシタトキハマイナス冷気のような女の子だと認識だったが遠い過去のように感じる。

たったの去年なのに。


「相談・・・。先輩お兄ちゃんが告白してからどんどん好きになって大好きになって日本一から世界一に好きになって今はパラレルワールド一で大好きです」


「そこまで想ってくれてありがとう。真剣に返事をするのは先になるけど」


恋愛は3年までが終焉を辿る。それが過ぎても想いは残っていて

俺の抱く想いにも偽りじゃないとはっきりと理解したら応える。


「・・・・・お兄ちゃん」


「寝てしまったか」


「すぅ――」


心地よさそうに眠る冬雅。おそらく膝枕されて高鳴る想いに眠れないと考慮して用意したのは居眠りに適した音楽であった。

軽くネットで調べただけだったが

冬雅が眠ってくれたならいいか。


「おやすみ冬雅」


冬雅が起きるまでは動けそうにないので音量をかなり下げてニュースや録画したアニメを視聴することにした。お弁当は昨夜から作っておいた。かなり長持ちするのを

前もって作って。冬雅の寝息を近くで聞きながら。

後で移山が入ってきたが気を遣って何も言わずに朝食を済ませると2階に戻る。それから次は比翼が

降りてきた。激昂するのでは

ないかと思ったが非難な目を向けるだけでため息を吐く。

優しげな笑みで冬雅の寝顔を見て

ダイニングテーブルの上で勉強を始める。

冬雅が目覚めるのは登校するギリギリだった。


「お、お兄ちゃん。その・・・恥ずかしいです。わたし」


耳まで淡い赤色になるほど恥ずかしいそうに目覚めた第一声。

俺は自分でも驚くほど穏やかな気持ちで「そうか」と短く応えた。

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