第263話―家デート後輩キャラになった冬雅―

「えへへ、おはようございます先輩」


自室からリビングのドアを開けるとエプロンを着けた冬雅がキッチンで朝食を作っていたようで俺に気づくと小走りで前面で止まると見上げて挨拶する。


「ああ、冬雅おはよう?」


先輩と聞こえたが聞き間違いだろう。呼称はすっかり固定しているのだから。それよりも俺が気にするのは冬雅の睡眠時間だ。


「俺よりも早く目覚めているけど眠たくないか冬雅?」


「えっ!うん。眠たくはありませんよ」


「それならいいけど」


浅い睡眠のレム睡眠、深い眠りのノンレム睡眠がある。基本的には

相互が代わって繰り返して動いている事から成り立っている。

二つが繰り返すのを睡眠周期と呼ぶ。

とあるデータによれば女性の方が男性よりも早く目覚めるとあるが

成人ではレム睡眠が増えていき自然と俺が早く起きる。いつも

先に目覚める冬雅を心配せずにはいられない。


「お兄ちゃん疑わなくても平気だよ。わたしぐっすり眠っていますから元気ですから」


「ああ、そうだな」


これ以上がないほど笑顔を向けられたら心配は無さそうだと俺は胸をなで下ろす息を吐く。

我ながらちょっと大袈裟なため息だなぁと自虐的になると冬雅は、

俺の反応に読まれたのだろう好意的な赤く染まる頬と照れ笑いを

見ることになる。眼福だからいいんだけど俺も恥ずかしい。


「とりあえず顔を洗ってください先輩。朝食は作って置きますから!ほら早く急いでください先輩」


表情と言葉遣いが一変。

両手を俺の肩に置くと優しく込めた力で回って促す。唐突な行為に促されたまま反転すると背中を押され顔を洗いにと出て行かせようとする。他人から見れば雑に扱われているように思うが温かく愛情が力のベクトルで伝わる。


「ああ、分かった。洗いに行くよ」


洗顔と髪を適当に整えてから戻ると朝食がテーブルに並べられていた。俺と冬雅の分。残りの二人分はサランラップしていた。


「よいしょ」


「先輩ちょっとかわいい!」


「普通はオッサンって言われる所だけど今さらか」


冬雅の対面に腰を下ろす。何か様子がおかしいと思い、どう訊くかと考えていると冬雅は見られている事に照れてしまい目を泳ぐ。


「せ、先輩。そんなに見詰められると照れてしまいますよ。えっへへ」


「その先輩と呼ぶのは?」


「やっとですか。気づくの遅いよ先輩、そこがかわいいのだけどねぇ。お兄ちゃん先輩は、とにかくかわいいのです!」


「そこはもういいと思いますけど。ほら後輩キャラを振る舞うことをだよ」


あえてツッコミを口にしなかったけど先輩と呼ぶように意識しているのだろうけど時偶ときたまにお兄ちゃん先輩やお兄ちゃんと呼んていて統一感がないよね。


「そうでしたねぇ。前に真奈がしていた幼馴染をドキドキ作戦を

していたわけじゃいですか。だから後輩です」


「すまない詳しく頼む」


またも頭痛が覚えてきた。頭痛薬があるので後で飲むとしよう。


「そうでした。先輩って小説を書いているじゃないですか。前に真奈がやっていた幼馴染キャラをしていたアレです!アレは名案だと考えたのですよ。

わたしが後輩をしていたら手伝いになれると考えました!」


「なるほど。そういうことなのか」


普通の人なら説明の補足を求められる所だけど冬雅を知っているから足りない部分は、ある程度と推定はできる。


「はい。ですので覚悟してください先輩!逃げてもダメですよ」


「それが言いたかったんだよね」


「えへへ、さすが先輩です。

今日うざかわ後輩になってドキドキしているのは、わたしなんですけどねぇ」


花も恥じらう照れ笑いをして嬉しそうにして隠そうとしない。

今日は二人で朝食を食べ終えてからうさかわいい後輩になりきる冬雅と談笑する。


「そろそろ学校にいかないと」


玄関まで見送りに行く。靴を履きマスクを着用する。


「先輩・・・大好きです!この気持ちは誰にも負けませんので。

い、行ってきます」


最後に発した言葉は今にも消えそうな声だったが後悔はしていないのが冬雅。毎日とする告白を今日も言えた事に静かに歓喜しているし。


「ああ、熱中症には気をつけて行ってらっしゃい冬雅」


冬雅は明るく手を振ってから踵を返して登校する。うざかわいい後輩キャラといえば定着している属性だな。

俺も含めて多くはいない。リアルでなら厄介な後輩だなと嘆息した

回数なら多い・・・現実的に考えて

これが最も該当するのではないかな。

夕方の窓からの景色は雨が落ちていく湿ったい雰囲気だと印象を与える。

執筆を休憩しているとインターホンが鳴る。


「あれは冬雅おねえちゃんだよ。おにいちゃん!」


「もしかしたら配達員の可能性じゃないかな?」


「いえ、わたしには分かります。

これは冬雅おねえちゃんです」


断言すると走って向かう比翼。

かなり懐かれているなぁと俺は苦笑しながら向かう。疑うのような発言したのだが俺も冬雅と思っている。

比翼がドアを開けると予感は的中。


「冬雅おねえちゃんだ。おかえりなさい」


「うん。ただいま比翼」


信頼に満ちた笑顔である二人を見ていると姉妹じゃないかって

思ってしまうなぁ。この際、姉妹でいいのではないのでしょうか。


「おかえり冬雅。はいタオル」


「ありがとう先輩!」


「・・・先輩!?」


「驚くよね普通に。実は――」


タオルで拭いている間に比翼に会話の一部を端折った事情を説明する。

何回か頷いて聞いていた比翼は、

理解力が高いのですぐに理解した。

どうして理解したと言うのかというと、まぁ呆れた表情をみたらね。


「なにそれ?いいんだけど、冬雅おねえちゃんが後輩キャラをしても。だけど、わたしの方が適任だと思うの。うざかわ後輩が」


残念だが比翼も後輩キャラで一日を貫くようだ。冬雅に刺激されたなぁこれは。

どうやら混沌な日々は、これからも続いていくんだと悟った。

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