第232話―在宅勤務になった移山パート7―
「おにいちゃん・・・・・一緒にお風呂入ろう!」
同居する妹のような存在である比翼が夕食を最後に食べ終え「ご馳走さまでした!」手を合わせて、いつもより高い声で言った。
食器洗いをする俺に聞こえるように。そして比翼は、食器を小さい方を上に重ねて台所まで運んでいき、俺はそれを受け取る。
いつもなら踵を返すか話をするであったが入浴の誘いを
羞恥心に負けずそう言った。
「誘いは嬉しいけど見ての通り今は食器洗い中なんだ。比翼は気にせず一人でゆっくり入って」
その誘いをイエスという選択は最初から無い。ストレートで断るのを避けた言葉であれば比翼も引き下がるであろうと・・・少し期待したい。
「それじゃあ、手伝うから。
終わったら・・・・・ねぇ!」
比翼は弾く笑顔と
(ですよねーー。分かっていましたよ!はい、はい、引き下がるなんて簡単にはいかないんだよなぁ・・・さて、終わる前にどうにか首を縦に振らざるを得ない言葉を考えないと)
比翼の肩が触れているのも別にいいとして、手伝うには些か狭い流し台で何を手伝うのだろうか。
これを指摘すれば諦めてくれるだろうかと悩んでいると。
「洗った、わたしがキレイに並べておくねぇ」
善意が溢れる笑顔を向けられ俺は手伝いにはならないと心で思ったが口に出来ず「それじゃあ任せた」と返事をしたのだった・・・
これが
そして直前の話に触れると論理武装で断る。
「約束が違うぅぅぅーー!」
「比翼が幼かったら入っていただろうけど、年頃の女の子なわけだから一緒に入ったら兄でも父親も一緒に入るの卒業している。
だから俺と入るのやめるべきだと思う」
「横暴だぁぁ!子供とか言って年頃の女の子とか急に扱って・・・
一緒に入りたいって、わたしが言っているんだから、それでいいじゃん!」
腹に据えかねる比翼は怒りを
いつものように
「なんだ?ケンカか」
上の階でリモートワークをしていた移山が持て余しいるような雰囲気で降りてきた。薄着の弟は比翼の金切り声が気になったのか俺に何があったか尋ねた。
「まぁ、大したことじゃないよ。一緒にお風呂を――」
「聞いてよ移山。わたしが手伝ってくれたら一緒にお風呂を入るって約束したのに・・・騙されて、
比翼は悲痛な演出をしようとして両手で目を覆い泣き始める。
まぁ、指の間にチラッと隙間を作り反応を伺おうとする点と、
「それはひどいなぁ。兄者お嫁さん候補と一緒に入るぐらい、いいだろ!」
「ほら、多数決で勝負は決したよ。
さあ、おにいちゃん諦めて入ってもらいます。入ってほしい!」
話の後半からは比翼の願望と前のめりになって俺と移山は苦笑する。
簡単には折れそうに無かった。戦場で赴いた兵士が負傷しながらも
叫びたい激痛に耐え、披露した身体を酷使をする絶対に生きる!という強い信念と目的を
一瞬そう思ったが、いくらなんでもそれは
(それだけ思わせるほど簡単には引かないことだろうから。
言葉を選ばないと)
「はっはは、比翼どんだけ兄者が好きなんだ。まさか、ここまで迫るなんて驚いたぞ」
「えへへ、分かる。けど、わたしに負けず劣らず他のおねえちゃん達も手強いけど・・・とくに冬雅おねえちゃんが」
愉快そうに冷笑ではなく親しみに向ける笑う移山に比翼は最初は
一面が咲き乱れるような笑顔であったが、最後のセリフに
「そ、それよりも映画プリキュアを見たいからこれで」
逃げるなら今しかないと考えた俺は俺なら優先しそうな理由を告げて2階に行こうとドアに向かうが
比翼か先回りされ失敗する。
もし、これがドラクエであったなら1ターンは無駄になって攻撃される流れだ。
「おにいちゃん、どこに行くのかな?」
「プリキュアを今すぐ観ようと考えています」
「後で観ればいいじゃん!
長風呂にならないから、少しだけだから」
比翼は狙ってやっているのか知らぬが抱き枕を抱くかのように引いていく。リビングドアを開け廊下に出ていき浴室に向かう。
「なんて会話なんだ・・・」
リビングから移山の独白が耳に入る。俺と比翼の暮らしではいつものやりとりであるが知らない移山は頓狂なやり取りに引かせてしまったようだ。もし俺も同じ場面に
なれば引くことであろう。
まず比翼は2階に上がり、それぞれ部屋で水着に着替えようと弾けんばかりの笑顔で言われ自分の部屋に入る。
(どうして、こうなったのだろう)
途方に暮れた俺は従うしかないのかと嘆息して手を動かす。
悲しいかな、悲しいかな、悲しいかなと愛弟子が亡くなった空海のような気持ちで着替える。かつて
こんな事を心で唱えて着替えた者は歴史を紐解いてもいないであろう。というかいる訳がなない。
「・・・・・!?」
(忘れていたがドアには施錠が出来るじゃないか!比翼が激しく怒られるが・・・)
それを考えたら恐ろしいが打つ手がこれしかなかったので、やるしかない。俺は脱いだ服を着るとドアのカギをして数時間だけ籠城をする覚悟を決める。
(どんな事があろうと決して開かないぞ。絶対に)
数分後、着替えが遅い俺に疑問を持った比翼がノックする。
そして戦いの火蓋が切られた。
「おにいちゃん何かありました?遅いのだけどーー」
「比翼やはり一緒に入るわけにはいかない。俺は後で入らせてもらう」
「はぁ!?そんな事を勝手に決めないで・・・あれ、開かない?
お、おにいちゃんもしかして――」
ガチャ、ガチャ。ドアノブの音だけが響いて開く気配がしない事に気づいた比翼は僅かな間を置いて、ガチャ、ガチャと開けようと
したが
「おにいちゃん開けてよ!」
「そういうのは恋人の相手にするべきだと思うんだよ比翼」
「ぐぬぬ、おにいちゃんとは将来的には恋人だよ。遅かれ早かれ
そうなるから別にどんな事をされても構わないもん」
「・・・よく考えて発言した方がいい。勢いすぎるのも問題だから」
説教をする回数がここ増えてきているなぁと俺は感じていた。
ドアノブを元の位置に戻り諦めてくれたのかと安堵をする。
「それじゃあ。
わたし、冬雅おねえちゃんから今からラインでこう送るねぇ・・・
おにいちゃんに恋人になってくれと告白されたって」
「えっ・・・それは、やめてください」
何故か敬語になってしまう。ドア越しから嗜虐的に笑う比翼が脳内で勝手に想像してしまう。なんだか、ごめん。
それよりも冬雅にそんなの届いたら泣かせてしまう事になる。
「どうしようかな?・・・どうすればいいか分かるよね」
「ぐっ!そ、それでも出るわけにはいかない」
「ふーん・・・追加っと。
真奈おねえちゃんには、おにいちゃんと結婚することに・・・・・な、ななな、なったって。てへへ、送るねぇ」
駆け引きの途中から比翼は恥じらいと嬉しさで送信すると発言した。
「それ、駆け引きはどこに行った!?わ、分かったから今度こそ一緒に入るから!やめてください」
「わぁーい!」
喜んでいるのがドア越しからでも声音ですぐに理解できるほど。
俺は諦念のため息を吐いて水着に着替えてドアを開け浴室に向かう。移動の際に比翼は腕を抱きついて引っ張るのだった。
「なんだか一気に疲れた・・・」
「おにいちゃんが変に抵抗するからだよ。もう〜」
比翼は
おそらく男性なら一度は妄想したことはあるイチャイチャを俺はしていることにるが、まさか恋人でもない加えて未成年だから
背徳感や後悔が奔流のように襲ってくる。
(別に何もしなければいいんだ。
起きても俺が阻止すればいいし。
今の体勢も、どうなんだろう悩んでいるけど・・・どこまで行けばアウトなのか分からない)
比翼の水着はシンプルで水色のマイクロビキニで身に纏っている。
露出した肌に、つい目に行ってしまうので気をつけないと。
女の子と一緒にお風呂を入った経験が無い(ある方がおかしいと思う)俺はどうすればいいか分からない。
「・・・・・」
沈黙が続き、比翼もこの先は考えてはいなかったようだ。アニメやラノベなら迫るなり甘えるなり
するけど現実では難しいのが現実だからなぁ。いや、そんな
展開にならないのが一番だ。
「そういえば比翼は西日本の生まれ育ちだからお風呂は先に入るんだよなぁ」
「?・・・あー、うん。そうだよ、確か東ではお風呂じゃなく先にシャワーをする習慣でしたよね。
まだ、わたしには染まっていなくて・・・今のうちにそういうのも修正した方がいいよねぇ」
比翼は俺の胸に頭を預けて、見上げて俺の目を見て声のトーンを落として言った。比翼なりに悩んで考えていたことであろう。
それを軽はずみに答えず言葉を選ぶ。
「・・・ハァー、それは比翼らしくでいいと思うよ。誰も比翼が東京に合わせるような事を望んでいない」
「おにいちゃん・・・うん!ありがとう、ちょっと嬉しかった」
返事をする時間も迫った俺は、かき集めたような言葉を選んだ。
拙い言葉でも比翼の心を感動をさせる事が出来たようだ。
「でも東京に染まる言葉をよく聞くけど俺には、ずっと東京に住んているから何がって疑問を持つけどなぁ」
「ふーん。おにいちゃん立って、わたしが背中を洗ってあげるよ」
比翼はゆっくり立ち上がりバスタブから出ると俺の手を小さな両手で優しく引くのは催促。
「お構いなく、俺は一人で洗えるから」
「そんな頑丈なアピールはいいから!立てよ、わたし好きな人の背中を一度、洗ってみたかったの」
「願望が口に出ているよ。
ああ、分かった。今日の言うことを聞くのはこれが最後だから」
「はーい。えへへ、やった!」
比翼は少踊りを始めそうな喜色満面で俺の背中を優しく洗うのであった。
そこからは、のんびりと風呂を浸かる。上がると一緒に牛乳を飲み
ソファーで座り比翼が好きなバラエティを見ているのを隣で執筆をする。比翼と眠りにつくが、俺はすぐに目が覚めてしまいリビングに向かいドアを開ける。
「・・・・・ふわぁー、起きていたのか」
「ああ、読まないといけない資料とか相談もあるからなぁ」
ダイニングテーブルで忙しく仕事をする弟の移山。PCのキーボードを叩くのが不慣れなのか、少し遅い。執筆ばかりしているおかげで俺はそんじょそこらの中高生にはスマホやPCのキーボード速さには負けないと自負している。
それは別にいいとして俺は紅茶を入れて二人分を運びパソコンの少し横に置く。
「ありがとう、兄者」
「んっ」
短く返事し対面に座り、俺はスマホでログインボーナスを受け取りに行く。プリコネ等は受け取るのは先だが基本的に殆どのソシャゲは零時に回れば受け取れる。
ついでにデイリーミッションも早く終わらせて俺も執筆しよう。
「見ないうちに兄者スゴイ女の子にモテっているよなぁ」
「んっ?急にどうした移山」
スマホから弟へと視線を上げて俺は唐突な人物評価をしたのは何なのか考えるが浮かばない。何も食べていないからか頭が回らない。
移山は視線はパソコン画面のまま手は動かしながら話を続ける。
「前の兄者って学生時代やリーマン時は全然モテるような事がなかったから、今のような状況が信じられないんだよ」
「それは俺も少し思っているかな。これが夢で、空白で見ていないのが現実じゃないのかって。
モテっているのは女子中高生だから思ったよりも気楽じゃないよ」
「ほぉ、ふーん?気楽じゃないって何が」
「もし相手が近い年だったら告白を断るのも、ここまで悩むことは無いのかなって。もし冬雅が、同い年だったなら俺は告白を快く受け入れたのかって最近そう考えるんだよ」
告白を断った大きな理由は年齢が離れていることが間違いない。
もしそれが無かったならといつも益体のない考えをしていたのを口に出てしまった。
「それ冬雅が大好きって事なのか兄者」
「いや、いや!?・・・黙秘権を行使させてもらう」
「まぁ、いいけど。たぶん兄者のことだら断っていたと思うぞ。
相手の気持ちを優先と容姿や声だけで付き合うような簡単な人間じゃないからなぁ兄者は」
指摘されるまでは気づかなかったが俺は、告白してきた相手を楽しんだ記憶が刻まれなかったら
好きにはならない人間だ。だから冬雅をいる時間が増えて好きになっていている、そんな自分がいる。あくまでそんな自分がいるだけど。
「この話は終わり。そろそろ執筆に取り掛かるとするか」
移山と二人で静かに話すのも懐かしく感じる。過ぎていく時間、
過ぎった分だけ思い出は新しく刻まれていく。移山の指摘され
冬雅とまた突拍子のないやりとりをしたいなぁと心の奥でそう望んでいたことを。
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