第219話―JKがいないのは違和感を覚えるGW―

突然の言葉に冬雅が隣家に帰る少し前。


「お兄ちゃん・・・また隣の関係に戻ってしまいますけど、ベランダの逢瀬おうせは難しくなります」


荷物を入れたショルダーバッグを携えベランダのドアノブを握る手を止めて振り返って困った笑顔を浮かべる。


「そうだなぁ、両親にはこんなダメ人間と知り合いだって思いたくないだろうから」


ベランダの挨拶さえも出来ないのは思ったよりも俺の心に落ち込んでいることに驚いていた。

それ以上に、一時的に会えないことに悲しく微笑んでいる冬雅を見るのは、もっと意気消沈になる。


「お兄ちゃんそんな事ないですよ。

ただ、年の差だけでいつか紹介したいと密かに考えているよ」


つい口に出た言葉を冬雅は励まそうとして明るく振る舞う。


「おにいちゃん」


隣の比翼から肘を突かれ批判を行動にした。自虐的になるのは、悲しいんだって言ってくれたはかりなのに俺は何をしていたんだ。

こういう時ぐらいは、悲しむ気持ちを力になれなくとも余計な心配はさせたくない。


「わるい、冬雅・・・」


先程の気遣いにと両親を紹介することも不確かな未来を返事が出来ないことも。俺が冬雅が好きな感情もそうなのか冬雅もそうなのかも。


「俺は冬雅とまた食事や挨拶をする日々が訪れるのを楽しみにして待っている」


曖昧で実現が出来ない約束はしない主義の俺は、願望を口にする。

真剣な言葉が心に響いたのか照れ始めた。


「お、お兄ちゃん・・・遅くなりますけど必ず帰ってきます。

お兄ちゃんと恋人にまだなっていないから」


感極まる冬雅は俺の手を小さな手で結ぶ。彼女の視線の左右でしっかりと決して離さないと体温や表情が伝わっていく。


「冬雅・・・」


「お兄ちゃん・・・」


白い頬を赤く彩る冬雅の顔を逸らさずに見つめる。吐息が聞こえ柑橘系の匂いが鼻孔をくすぐる距離。

引き寄せられる大きな瞳を俺はどくほど時を見ていたか冬雅は、見つめ合う状況に耐えきれずに

顔を逸らした。


「えへへ、なんだか本当に相思相愛みたいで夢みたいです。

お兄ちゃん大好き・・・いつか一緒に本当に生活したいです」


「冬雅。えーと――」


「コホン。別れをするのを邪魔にしないよう思いましたけど・・・

いい雰囲気は終わりだぁぁーー!!」


比翼の絶叫に俺と冬雅は繋ぐ手を離す。別れを惜しむあまり冬雅と同じ気持ちになっていたようだ。


「えへへ、ごめん。つい想ったことが口に出てしまって」


「ハァー。これ今生こんじょうの別れか何かですか?

二人とも二度とあえない雰囲気になっていたけど、ゴールデンウィークが終わったぐらいだと思うのに」


こればかりは比翼の言葉が正しいので俺は返す言葉も言い訳も無かった。

まずいなぁ、冬雅と長くいたからか影響を受け過ぎたようだ。

悪い面ではなくプラスだと思う、それ以外の多く良い影響もあるが。


「それじゃあ外は暗いだろうから見送るよ」


「はーい。わたしも」


一分も掛からない距離でも目を塞がりたくなる陽属性の美少女である冬雅が心配なので俺が送ると

言うと比翼は挙手して声を上げた。

三人でマスクして距離をある程度を空けて歩いてすぐに目的地に着くと送る必要はあったかな?と

いつも思ってしまうが冬雅のためならそんな疑問は間違っている。

不安材料を全力でやることにやり過ぎはないはず。


「お兄ちゃんと比翼いっぱい話したいことや告白もあるけど

次に会う日に取っておきますねぇ」


「ああ、告白はほどほどにしてほしいけど」


「冬雅おねえちゃん安心して家でゆっくりしてください。

その間に、わたしがおにいちゃんの彼女にランクアップになっていますので。ふっふふ」


バトルマンガのような不敵な笑みの比翼に冬雅は「な、なんだって!?」とコミカル風に応じた。

冬雅は比翼の扱いが得意のようだ。

明るく笑っていた冬雅は少し寂しそうにする。


「それじゃあ、バイバイ2人とも」


そう言うと冬雅は自分の家に帰っていた。その姿を見えなくなるまで手を軽く振る俺の心は、寂しい気持ちはあった。

ゴールデンウィーク5月1日。

俺は、ウインナーと目玉焼きとレタスのオーソドックスなメニューで比翼とテーブル挟んで朝食を取る。


「おにいちゃんゴールデンウィークだね。何をしてようか?

アニメとかゲームとか?」


「そうだな・・・筋トレとか」


「えぇーー、やだ」


ものすごく嫌な顔で拒否をする比翼。まったく、この妹様は食べてばかりで太るだろうにと内心そう

思い嘆息する。口にすれば泣かれそうなので言わないと決めている。


「駄目だよ。比翼は運動不足ぎみみたいだから。いきなり食べ終えて動かすと気分が悪くなるから

アニメ一話分を見てからにしよう」


「分かったよ。はーい、何を見ようかな?」


リモコンを持って録画リストを唸りながら悩む。かくしごと選んだようだ。どんなアニメだろうか。

あまり興味は抱かず視聴を終える。


(ドタバタしているのに自然と落ち着いた日常生活。

マンガ家の職業がそうなのかって知れて面白い)


いつか冬雅と一緒に見ようと俺は内心そう決意した。

まだ一話分だけどいい作品を見終わった特有の清々しい気持ちで麦茶を入れたコップを飲む。


「わぁー、面白かったよね。

わたしヒロインの気持ちすごく理解できます」


どうやら面白いと感じたのは比翼も同じだったようだ。


「そうだな。ヒロインって娘の」


「うん。前のパパとこんな生活があったのかな思って」


「比翼・・・そうかもなぁ」


今だ、比翼の両親は聞いたことはあったが再婚する前に父親のことだろう。どんな人だったのか、あの頃に思い浮かび儚く笑顔になる見ていたら推測することができる。具体的に分からなくても。


「代わりになれる話じゃないが、比翼の俺の事を父親ように

甘えてくれてもいいんだよ」


「おにいちゃん・・・」


まだ幼く頼れる人は数少ない比翼の力になれるなら全力で支えようと思っての発言。比翼は満面な笑みを浮かべて――否、不愉快そうな顔をした。


「おにいちゃんは、わたしの夫なんだから父親じゃないよ!!」


「いや、夫じゃないんだけど!?この話は終わりにして筋トレを始める」


「えぇー、しかたないなぁ。

そのかわりなんだけど、やり遂げたらご褒美がほしいなぁ」


「はい、はい。ご褒美は期待に添えるか分からないけど」


冬雅のオススメ動画をPS4のユーチューブからテレビ見ながら

体を動かす。俺が調べたら何が良いのか右往左往していたことだろうなぁ。疲れ知らず別の言い方をすれば超人の冬雅がオススメに

不安があった。

出来る人は高度で玄人がやりそうな選ぶと心配していたが俺と比翼でも出来る範囲だ。

ここまで気配りが出来ると、いいお嫁さんに――


(って、何を考えているんだ俺は!?

そんな関係になるなんて普通に考えて無理に決まっているじゃないか!!)


雑念を払い身体を動かすことだけを集中する。次第に息が切れると

まだあるのかと軽いショック受けながら続けてようやく終わる。


「はぁ・・・はぁ。疲れたけど、やり遂げた。おにいちゃん約束のご褒美!」


期待が溢れる瞳でご褒美と催促。

そこまで期待されるとは思わず満足してくれるかなと不安になり苦笑する。


「えーと、大したことじゃないけど。

えらい、えらい」


つややかな波の黒髪を優しくでる。


「えっへへへ」


破顔していた。それはもう幸せで嬉しそうに。よしよしなんて上手く出来たとは思えないし驥服塩車きふくえんしゃなんて自覚している。冬雅や真奈なら、もっと上手く出来るのだろうかと

俺は、ふとそんな事を考えた。

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