第194話―ふゆかじゃなく、とうがだ!―

春眠しゅんみんあかつきを覚えず。

意味は――暖かい時期の訪れに、つい心地よく寝過ごしてしまうことをいう。しかし3月の夜は寒く寝過ごしてしまうのを、まだ早いのだろう。されど、比翼の協力によって小説の取材の結果はアイデアは多く得た。

日が昇るか昇らないか午前4時まで執筆していた。


「おはよう冬雅」


午前10時ちょっと過ぎた時間に目覚めてリビングに入ると勉強していた冬雅が、輝かんばかりに笑顔になるのを刹那せつなで整い過ぎているまゆをつり上げて怒りをあらわにした。


「お兄ちゃん、もうそろそろ昼だよ!

起きるの遅すぎるよ」


「ごめん。ちょっと小説にはかどって遅くなったんだ。楽しくなって、つい」


「捗っていいですけど、身体を大事にしないとだよ。お兄ちゃん」


「はい、気をつけます」


「うん、素直でよろしい。

わたし朝食を温めておくから顔を洗いに行ってねぇ」


「分かったよ」


言われた通りに俺は洗面所にいき顔を洗い終えてリビングに入る。

休息を与えずに今も活躍している我が家の炬燵こたつに入る。あと、一ヶ月ぐらいまでかな。


「おにいちゃん、おはよう。

惰眠だみんを貪っていましたね」


勉強の手を止めずに視線を落としたままで比翼は、静かに挨拶した。気のせいだろうか、機嫌が悪そうに思うのは勉強中で集中しているからか。どっちにしても、邪魔にならないようにしないと。


「おはよう比翼。夜ふかししていたからね」


俺は、ブルーレイリモコンを持ち録画したアニメを何を見ようかと悩んでいると――


「・・・おにいちゃん今度こそ、わたしと一緒に寝てほしいかな」


その発言に慌てることはないと思ったがリモコンを滑り落ちそうになる。勇気を振り絞りやや高い声でそう言い放った比翼。

ここところは、冬雅と寝るのが多かったからなぁ。今年で15歳になるわけだから、俺と寝るのはやめるべきで傷つかずに言葉を

選んで断ろう。


「そうしたいのは山々なんだけど応募期間が迫っているから今日も遅くなるんだよ。本当にすまない」


「そ、それじゃあ!わたしが寝ている横で寝てくれてもいいよ。

そんなわけで、今日はおにいちゃんのベッドで寝ます!」


これが外でしていたら、このセリフだけ聞こえた人が通報確定の内容だ。それに、これを受け入れると後から入る俺は、なんだか同衾どうきんみたいだと罪悪感

になって炬燵に寝る流れは見えている。


「その、当分は冬雅で我慢してほしいかな」


「・・・おにいちゃんは、わたしに飽きたのですか?」


動かすペンを止めて比翼は聞こえるか、聞こえないかの小声で悲しそうに言った。わたしに飽きた言葉を、どこで覚えてきたのか問い質したいが下手に過去を掘り出すような事はさせたくないと思い留める。


「いや、いや飽きたとかそういう問題じゃなく近い年齢の冬雅と

一緒になら楽しいだろことで」


「柔らかくて、すべすべして、気持ちいいけど、包容力ほうようりょくがある、お兄ちゃんがいいんです!」


包容力なら冬雅の方が上だと思うけどそれは、どうでもいいとして恥ずかしながらも一生懸命に言っている比翼には申し訳ないが、

これは簡単に首を縦に振れるものじゃない。


「無理なものは無理だよ比翼。

もう年頃の女の子なんだから言動とか気をつけた方がいいよ」


「やだぁー!一緒に寝たい、寝たいぃぃーー!!」


駄々をこね始めた比翼に俺はさっきまでの成長を感慨深くなっているとこれだった。俺はため息をして、また幸運値が下がる。


「分かった。だけど、これが最後だよ比翼」


「やったーー!」


天に届け!と言わんばかりに踊り上がり喜ぶ、そこまで懐いてくれると心嬉しくなるはしゃぎぶりだった。


「・・・お、お兄ちゃんそれなら・・・・・」


「それなら?」


背後から冬雅の声に振り向くと、落ち着かない様子で上目遣いで言葉をなんとか紡ごうとしている。

あっ、これは読んだ!

比翼のセリフに刺激され冬雅も隣に寝たいと言うに違いない。


「その――」


「そろそろ洗濯しないと」


実際に溜まっているので洗濯もしないといけなかった。それを口実にして、危険なワードを発する前に俺は強引的にこの話を終わらせる。リビングを出て冬雅が、「あっ」引き止めようとするが言葉を探している途中で思いつかなかったようだ。少し遅いが天気はいいので干せば夕方頃には乾くだろう。独立洗面台にある洗濯カゴに山のように溜まった服などを

洗濯機に入れていく。


(やっぱり一時的とはいえ一緒に住むとすぐに溜まるんだなぁ・・・ってこれは!?)


俺は油断していた。起きたばかりで思考があまり回らないのもあったが、冬雅の言葉を避けようとして焦ったのもあった。三角形の白い布を俺はどうするかと悩んでいたら――


「お兄ちゃん、お手伝い・・・しま・・す」


ドアを開けた冬雅は俺が握る物を見ると驚きのあまり目をいて言葉を失い硬直状態。

無理もなかった。俺が掴んでいるのは冬雅の・・・下着のショーツなのだから。


「せ、洗濯するか悩んでいて・・・いや、違う。不可抗力だよ」


咄嗟の言い訳をしているのが、手に取るように分かる慌てぶりだなと俺は冷静にそう思った。冷静なのは頭だけだけど。

これだとラブコメじゃないかと俺は嘆き、冬雅は俺の稚拙、極まりないセリフに頬を赤らめる。

どうして、そんな反応でしょう?


「お、お兄ちゃんだめえぇぇぇーーーー!!?」


冬雅はショーツを取り戻すと、下着だけは、わたしがしますと一緒に住むルールが決められる。

それが家族になったみたいでむず痒くなった。

あんなラブコメ展開を引き起こすのは10代であるべし!といるはずがない神に心で訴える昼過ぎ。

昼食を食べ終えて比翼が勉強に必死に頑張っていて冬雅は自分の家に戻ると告げた。最も近い隣家の位置にあるのが冬雅と両親が住む峰島家みねしまけのマイホーム。


「それなら、俺も手伝わせてもらうよ。普段から手伝ってもらっているお礼に」


「ありがとうございます、お兄ちゃん!」


向日葵ヒマワリのような明るい笑みでお礼の言葉をする冬雅。


「むぅー、二人だけだと絶対に間違いをおかしそうだから、わたしも行きます!」


挙手して比翼は俺と冬雅を二人にさせると危険を感じて、同行もとい監視に行くと言った。冬雅なら、ともかく俺はそんな事はしない!そこは信じてほしい比翼。


「そ、そんな事は起きないよ比翼・・・たぶん」


冬雅たぶんじゃなく起きないし、起こさせないから!そもそも反応が逆のような気がしてならない!?


「これだから冬雅おねえちゃんは・・・油断できません」


「わ、わたしまだ何かするって言っていないけど・・・」


「まだ?ですよね。機が訪れば果敢に攻めるに決まってます!虎視眈々とおにいちゃんを猛禽類イヌワシのように狙っている」


当時は語彙レベルが高くなかった比翼が一般の中学生には難しい言葉を多く使っているのを見て温かい気持ちになる。


「大人になって気づいたが、身近な子供が成長すると形容し難い嬉しさがあるんだな」


「わたしも、お兄ちゃんの気持ち分かります!」


「温かい目で見るのやめてぇぇーーー!!ほら行くよ」


比翼は称賛の言葉とぬくもりに頬を淡い赤色でなって先へと行く。

俺と冬雅は同タイミングで目が会い、合図したようにズレがなく一緒に笑い出す。

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