第190話―挑むホワイトデー3―
チーズケーキを作るため俺は材料を買いに行こうとすると冬雅も同行すると言ってきた。広範囲に広まる流行病コロナウイルスをパンデミックとも、感染が広まっている中で断ったのだが専門店をよく知っているので力になれます!
と反論されてしまい言っても冬雅は同行しようとするだろうと考えて俺はいつものように折れて頷く。
「お兄ちゃん楽しいですね」
マスクと春の私服姿で右隣に歩く冬雅は曇りの空の下で輝く笑顔を向ける。住宅街の朝に冬雅と買い物に二人で行くなんて久しぶりだった。
「ただ歩いている、だけなんだろうけどね・・・比翼はおとなしく留守番をしているのが少し驚いたけど」
「お兄ちゃん。比翼も成長してきているんですよ。14才なのだから当然ですよ」
「そう・・・だな。冬雅も成長して眩しいよ」
俺以外にも冬雅はよく周囲を見るようになって気持ちを
「そ、そうですか・・・わたしにはよく分からないけど、お兄ちゃんがそう言うなら成長しているんだね!わたしも思うんです・・・お兄ちゃんも成長しているって」
「それは無いよ。俺は停滞しているか落ちるかだけだよ」
失業してから、特にその感情は強くなってきている。冬雅達のおかげでそれほど気分を落ち込む
ことは無いだけであってスキルや準備もせず執筆を遮二無二しているだけ。
「そんなこと無いですよ!お兄ちゃんの素敵な所はいっぱいあるよ。
気づかないように影で支えてくれるのと、笑うのが増えて明るくなっているのと、向上心があって後ろ向きながらも前向き過ぎるのも」
「褒められているのか貶されているのか分からないなぁ。それは」
「なかなか出来ませんよ。普通の人がする優しさって個人や周囲に対してアピール性があるけど、お兄ちゃんはそれが無いのが素敵ですよ!」
完全に目を光らせて好きな相手の長所を語る冬雅。彼女の輝くようになっているフィルターには、そうであっても実際は惰性的に生活しているだけだと思うのだが。
マスクしていて分からないが、きっと口角を上げていることだろう。
「そうかな?俺だって冬雅や真奈に優しいアピールはしていると思う。人は無意識でそう行動するようになっているから」
自分が優しいと思っていると目が曇らせて本来あるべきものが悪化させる。だから俺は自分では優しいとは思わないし、現に寄付とかボランティアなどしていないので優しいなんて程遠い。
「それ
ボソッと小声でそう言った冬雅は恥ずかしかったのか少し俯いている。しっかり耳に入った俺の方が羞恥心にあるのだけど・・・気づいていた事が衝撃的だ。いや、掛け布団を掛けられたら大体は想像はつくものか。コロナウイルスが不安があるのに外出する人は思ったよりも多い。冬雅のオレンジメインカラー春着に振り返る人は多い、気持ちはよく理解できる。
住宅街から並木通りを並んで会話はなく景色を眺めたり近くにいるだけで心地良い気持ちで歩く。
「お兄ちゃん、情けは人のためにならず・・・って助ければ巡りに巡って返ってくる意味のことわざだけど素敵だと思いません?」
「え?・・・急にどうしたんだい」
静かに歩いていた冬雅が唐突に有名な、ことわざを素敵と口にした。確かに素敵な意味だと思うが・・・。
「いい意味だと思うよ。けど、それは助けを得られるものを求めてだと聞こえならない。個人的には好きじゃない」
「それです!」
「え?・・・急にどうしたんだい」
先程と同じ言葉を俺は口にした。そんなマヌケな反応をしてしまうぐらい突然だった。ビシッと次々と犯行を目的を説明していく探偵の
嬉しそうにする冬雅は、突きつけた指を自分の顔の高さに肘を曲げて指を左右に揺らす。
「普通なら適当に相槌を打つのに、お兄ちゃんは定義を否定した。それは信じるものが、きっと強いからと思う・・・そうなった経緯も知りたいけど置いときます。
お兄ちゃんは
冬雅は
「返報性の原理?」
「心理学の一つです。大まかに言うと得た側は何かを返さないといけない心境のことです。
それで、お兄ちゃんは返すことを嫌っている」
それが返報性の原理か。心理学はまったくしてこなかったから知らなかった。
「・・・えーと、どこに向かうのかな」
「そんな露骨に話を逸らすのですか!?・・・・・あっ!お兄ちゃんもしかして」
冬雅は走り始めて振り返る。
「えへへ、やっぱり顔が赤くなっている」
羞恥心にある俺を顔を見て嬉しそうに笑う冬雅に勘弁してほしいと俺は心の中で呟く。
「お兄ちゃんゆっくりと眺めるのは後にしましょう。渡す人数がそうとう多いですから」
冬雅の言う通りバレンタインチョコを多く貰っているので返さないといけない。あれ、これを返報性の原理にあるのでは?さっそく覚えたものを実践するとは俺は勉強熱心!
「そうだな。必要な物を買って作る時間を余裕を持ちたい」
「うん!お兄ちゃんその意気です。
風神と雷神の速度で行きましょう」
冬雅に必要材料を教えてもらいカゴに入れていく。なるほど、クリームチーズや生クリームか。
失敗して予備に多め購入して店を後にする。思ったよりも客や店員には冬雅の容姿に目を奪うものはあったようだが俺を兄と認識してか淫行など疑わずにすんだ。
お兄ちゃんと、ずっと呼んでいたのが大きいけど。
「お兄ちゃん!お兄ちゃんケーキ作り頑張ってくださいね。気負わずに気楽に」
「ああ、美味しいチーズケーキを作ってみせるよ」
冬雅と袋を一緒に持って帰り道を歩く。この何気ない日常的な幸福感を噛み締めていると冬雅の
存在は俺の中で大きくなっているのだなと考えさせるものだった。
本来はJKとイチャイチャしていたら背徳感を覚えるのだが――
(不思議と冬雅といると清々しくからなぁ。そもそもJKのカテゴリーとかじゃなく冬雅だからだろうけど)
一応、頭の中ではまずいのだと危惧しないといけないと思っているのだが・・・好きなると
「お兄ちゃん・・・その、愛しています!」
「えっ?ああ、ありがとう」
3月に入っても冬雅から毎日と課している告白を欠かさずにやり遂げようとしている。だから驚きは無いのだけどマンネリというかべきか、愛している単語を頻繁に使うのが多いのだ。思い当たることが無いのだが絶対にあるだろうから俺が忘却しているだけだろう。
風が吹く。その風は春の暖かみ春風ではなく寒々とした風。
「冬か」
季節上では春、寒さは冬を感じさせる日もある。まだまだ
「お兄ちゃんわたしに何か?」
「いや、ただの独り言だったんだけど・・・まだまだ寒いと思って?」
「えーと、お兄ちゃん名前を呼んだよね、わたしの」
困惑したからか倒置法だった。
「んっ、名前を呼んでないけど?」
「え!?」
あれ?おかしいなぁ。なんだか話が一方的に走って合わないのは、なにゆえ?俺が悩んでいると袋を持っていない空いた手で冬雅は自分を指を向ける。
「えーと、冬雅ってボソッと」
「ああ、冬雅じゃなくて冬の季節の冬だよ。まだ冬を感じるれるから、冬か」
「あー、なるほど。そうだったんですね。納得しました・・・・・お兄ちゃんに名前を呼ばれてドキッとしたんだけど残念です」
俺の間際らしい独白にシュンと落ち込み始めた冬雅。ドキッとしたならお詫びも込めてやるしかない。
「冬雅」
「冬ですね」
「おかしいなぁ、返事がない。もう一度だけ呼んでみるか。冬雅」
「へえぇ!?は、はい!お兄ちゃん」
意図が解った冬雅は雪のような白い頬が赤く混じっていた。
「「ただいま!」」
俺と冬雅は帰宅して高い声でリビングにいる比翼に届くように発した。偶然にも
「おかえりなさい・・・で、おにいちゃん訊きたいのだけど冬雅おねえちゃん明るさ度が高いけど
何かした?」
す、鋭いと俺はそう思ったが冷静になって隠すようなことはしていないと退いた足を戻す。冬雅は
かなり動揺していたが。
詳細に比翼に説明を短くした。
比翼は拍子抜けだと言わんばかりの笑顔でリビングに行った。俺と冬雅も後を続けて入る。
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