第162話―成人の日―

目覚めたばかりで頭が冴えずにいる早朝は冬雅と比翼でもちを食べていた。


「そうか。今日は成人の日だから冬雅、制服を着ていないのか」


「ふぇ?」


成人した人達が未来が明るいと信じて疑わないような笑顔を浮かべているのをテレビで観ていた。

そんな暗い考え方するほど俺も現実を見たことだろうか。そう感慨深くなるようなことだったけど冬雅が首を傾げる。


「ああ、ほら。ニートだからちょっと休みとか疎いんだよ。だからね・・・」


「お兄ちゃん、そんな卑下しなくてもいいのに。あの、お兄ちゃんは成人式はどうでした?」


「あっ!わたしも聞きたい!」


冬雅は過去にそんなに聞きたかったのか興奮で頬を赤らめ比翼は元気溌剌はつらつに手を上げる。


「いや、私は成人式は行っていないよ」


「えっ?行っていないのですか」


「あ、あのおにいちゃんが!?」


比翼、絶叫するほどですか。

まぁ俺のみたいに成人式に行っていない人もいる。未成年の冬雅と比翼に説明しても理解してくれないだろう。


「それじゃあ、お兄ちゃんの成人式の写真はないことに・・・それはあまりにも残念で仕方ありません」


「・・・冬雅、まるで世界遺産が一つ壊れたみたいなトーンされても」


「おにいちゃんヤバいよそれは!成人式の姿を見たかったよ!!」


「ヤバくはないと思うけど」


かまびすしくなるが、この独特で決まったやりとりに心が穏やかになっていく。フッとこう思ってしまう、俺が成人ころは冬雅は十歳の四年生であること。


「お兄ちゃんは、二十歳の時にはここに住んでいたのですか?」


「えっ?うーん。そうだな。

住んでいたよ」


「そうなんですね。うっ、わたしのバカ・・・もし、お兄ちゃんをもっと早く知っていたら毎日が輝いていたのに!」


「冬雅、聞こえているよ」


「冬雅おねえちゃん心の声が駄々漏れ」


拳を固める冬雅は、突っ込みした結果ものすごく赤くなる冬雅。


「だ、だってお兄ちゃんとは

もっと早く出会いたかったんだよ。だ、大好きな人ならそう思うのは当たり前だよ」


「冬雅、俺も少しだけだけど そう思ったりもしている」


ピンポーン、ピンポーンと鳴り響くチャイム。素早く走っていくのは比翼。その後ろに続く俺と冬雅。比翼が玄関ドアを開けると真奈と三好さん、羽柴さんのメンバーだった。


「真奈おねえちゃん!」


「フフ、おはよう比翼」


真奈は抱きつく比翼を優しく微笑みながら頭をでる。

真奈以外の二人は俺と冬雅を明るい笑みだった。


「おはようございます。冬雅のお兄さん」


「おはよう永世えいせいロリコン」


三好さん今日もお淑やか。

羽柴さん今日も怒っていた。


「えっへへ、真奈おねえちゃん大好き」


「ワタシもだよ。えーとお兄さんこんにちは」


「ああ、こんにちは」


挨拶を済ませてからリビングに戻り俺はソファーに座る。

隣には冬雅と真奈である。


「お兄ちゃん成人式になると、お兄ちゃんは誰と付き合うか返事してくれるのですよね?」


「・・・きょ、興味無いけど。

お兄さんはどうするの?」


双方から上目遣いに俺は微苦笑するしかなかった。

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