第154話―初詣メモリアル4―
本殿に足を踏むと
「またか・・・もう並びたくない」
「えへへ、わたしはおにいちゃんとゆっくり話できるから嬉しいですけどね」
「そう言われると比翼と家で話せなかった事も話せることもあるだろうから楽しみかな」
「おにいちゃん」
「仲はいいこと良いが、程々にな」
移山が珍しくまともな事を言う。前であれば逆だったであろう。これを俺が可笑しくなったのか移山が成長したと考えるべきか。
「えへへ、それは無理だよ。
おにいちゃん好きな女の子タイプとか教えてよ」
「うーん、そうだな・・・やっぱり長い黒髪とか・・・うん。それぐらいかな」
中高生らしい質問されたので、自分の好みを改めて考える。それが不思議と出てこなかった。普通なら胸とか顔や性格など言えばいいのだけど、強い
「えぇー、おにいちゃんもう少しあるじゃないの?ほら、JCが好きとか妹的な存在とか」
「それが好きだったら変態だよ」
今年で28才になるのに、JCが好きなんて頭が沸騰した発言はしない。妹的な存在もたぶん・・・。
列が少し進んで行きそろそろだ。
「最後の問いには当て
「えへへ、おにいちゃんが変態でも別に気しないよ」
移山は清々しく笑って指摘し比翼は明るい表情で腕に抱きつく。
「比翼それは気にしてくれ。
将来が心配するから」
「いいよ、別に。心配ならずっとわたしを見てよ、おにいちゃん」
比翼は柔らかい頬で腕にすりすりとする。意外と甘えん坊であふれる元気を目にすると俺まで元気になる。高いテンションにある比翼と余計な事を言う移山と取り留めのない話を夢中になっていると
前の人のカップルがお参拝が終わったようで次の番と回った。
「比翼いいかい。賽銭箱にはお金を多く入れればいいってわけじゃないんだよ。それだと
オーソドックスならご縁があるように5円玉。また、自分に満足した入れるんだよ」
「分かったよ、おにいちゃん」
財布を出し5円玉を3枚ほど出して賽銭箱に向けて投げる比翼。
チャリン、チャリンと心地よい響き。俺は5円玉を一枚だけ投げる。お金がない意味の手元が
「
「それは知っているよ」
強気ではなく本当に既知であった声音。比翼の勉強に付き合っていると小学生で習う漢字や算数など
人よりもできない。比翼が語った酷い環境が原因だろう。子供の俺は生まれつきの頭のよさを信じていが、そんなのまやかしで言い訳だ。実際は勉強に必要な条件が数多にある。大きいのは親や環境の二点と思っている。
親の背中を見て子が成長すると言う。親が語彙力があれば自然と言葉が増えていき趣味も自然と似る。普段は本を読んでいたなら子供の趣味となる。環境を手に入れるのは難しいだろう。なにが勉強に適した環境かなんて情報収集や運の要素があって俺自身も深く想像が出来ない。
(だから色々と教えてしまうよ。
見た目や言葉遣いで分かりにくいけど実年齢よりも幼く見えるから)
比翼の行動には
参拝を終えた俺達は参道の邪魔にならない所で――
「おにいちゃん、おにいちゃん♪一体どんなお願いをしたの?」
とお約束とも言える会話になる。
「聞いてもつまらないよ。比翼達に
「新春ばんぷく?」
「ハァー、もう少し言葉を選べよ兄者」
呆れた移山に物申すことがある。
女の子にそんな質問されたことが無かったから少しテンパってカッコつけたのだ。女の子ではなく比翼だから少し見栄をよくしようとしたと思うことも無くないわけで、ともかく意味を言わないといけない流れだねこれは。
「今年は多くの幸福にあふれた年でありますように意味で・・・これ思ったより恥ずかしいぞ!」
おかしいなぁ。同じ意味なのにこっちの方が恥ずかしくて穴があれば入りたい。
「・・・・・お、おにいちゃんが
わたしのために・・・」
「へぇー、やっぱりか」
比翼は顔を加速するように赤めていく。移山は指をあごに触れてそう呟く。こういう移山は思案を巡らせている
「そ、それよりもおみくじでもしよう」
「あっ、おにいちゃんが逃げた」
不満そうなトーンを出す比翼。
わるいけど早くこの話題を終止符を打ちたいから。おみくじを引く、やや強引な流れとなったわけだけど引くなんていつ以来か。
最後に引いたのって20歳かな。おみくじの紙を広げる。
「小吉・・・うーん微妙かな」
ややこしいのがおみくじの順位。場所によって順位が違う。
例えば大吉の下が吉とか。一般的
には吉より上が小吉、中吉、大吉の順。この順位によれば小吉はわるくないランク。されど素直に喜ぶともなれず本当に微妙で普通。
「中吉だ」
移山を後ろから覗くと中吉と書かれた紙。けど仕事運とか恋愛運は
なんとも言えないものだった。
「なんと言うか普通だね」
「そんなものだろ。兄者は?」
「ワンランク下の小吉」
そう言えば最後に来たのも弟だったなぁ。うん、まぁ普通に楽しいから良かったけどね。比翼はどうだろうと結果が気になってくる。
「比翼はどうだった?」
「大吉です」
「へぇー大吉か」
「ほぉー大吉か」
紙を広げた比翼は喜色満面で絵になる可愛さだった。俺と移山は大きなリアクションは無し。
もう20代なので大きなリアクションはしない(個人差かなりあり)。
「えへへ、大吉ですからおにいちゃんとデートがあるのかな」
「だな。兄者に壁ドンとか
「いや、そんな軽はずみに言うのはどうかと思うけど」
「ほ、本当ですか!?
えへへ楽しみだな」
キラキラした期待の眼差しを向ける比翼。ほら、真に受けたじゃないか!それをやったらコンプライアンス的にモラル的にアウトだから。想像したまえ、そこまで年が離れているのに実行したら犯罪臭しかないでしょう。
「一応、言うけどしないよ!」
「なんだかドキドキしてきた。えへへ」
駄目だ、話を聞いていない。これが伏線回収みたいな流れにならないよう神に祈るとしよう。無宗教で神なんているなんて信じていないが。とりあえず比翼のために
「比翼。破魔矢は魔を除ける、
縁起物として家で飾るときは普段いるリビングとかに置くんだ。
ちなみに羽根が上になるんだよ」
「うん・・・・・うん。えーと、つまりどういうことなの?」
「じゃあ
「うん、分かった。
帰ったらすぐにおにいちゃんの分も幸せになるように飾るね」
比翼の笑顔は
「おーい、比翼。兄者とラブラブなのはいいけど俺の分も考えてくれ」
「も、もちろん忘れていないよ。
・・・わたしとおにいちゃんってそんなにラブラブかな?」
「していないよ!」
「している」
「そうなんだ。えっへへへっ」
俺の否定による言葉などどこ吹く風、移山の言葉に腕を抱きつく比翼。信用に満ちた笑顔をずっと向けられると恥ずかしいし、自然と前を見ていない比翼の分も俺が見ないといけない。
比翼のおかげで俺と移山は心の奥底で談笑できた。
(きっと、比翼も楽しんだ)
これが思い出として比翼と語る未来があると期待して。
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