第153話―初詣メモリアル3―

東京都千代田区にある靖国神社やすくにじんじゃを参拝することになった。電車に降りてスマホの地図アプリで振袖をレンタルできるお店に行く。移山が絶対に振袖っと言われ探すことにした。もちろん俺も探すのはやぶさかではないので評価など年齢に合うもの吟味して選び行く。


「おにいちゃんかわいいの選びました。かわいいかな?」


牡丹ぼたん色の振袖に身を包んだ比翼。ウエーブがかった髪の左には鮮やかな紫色むらさきいろアイリスの花。


「おぉー、スゲぇ。可愛いって思わないか兄者?」


「ああ、似合っていて可愛い」


「か、かわいい・・・おにいちゃんに言ってくれると一番うれしい」


頬が赤く染まり振袖が原因か眩しく満面な笑みを向ける。

待って相手は中学生でドキッとしてどうする俺。比翼に手を繋がれ

靖国神社に入る。


「うわぁ、人が多い」


人が賑やかな場所に俺は着いてすぐドッと疲れがきた。もう帰りたいなぁ。


「お、おにいちゃんは楽しみじゃないですか?」


不安げに見上げる比翼に何かあったのだろうかと少し前を振り返るが思いつかない。


「人が多くなかったら楽しんでいたかな。待っている間、苦痛で」


「わたしは、おにいちゃんとこうして近くでいられるから楽しいよ・・・え、えへ、へ」


比翼は恥じらうあまり拙い笑い声を発する。手を繋ぐことはたまにあるけどドキマギさせているのは何か。本当に好意を寄せられる美少女がいると落ち着かないのに

居心地がいいと感じる矛盾。


はたから見ていて

スゴイ純愛ものだな」


隣にいた移山は微笑んでそう言う。その言葉に比翼は手をギュッと握る。恥ずかしくなって無意識にしているのだろう。真奈がよくやるから分かる。ちょっとした理解度の自分に嘆息。さて、長蛇の列がやっと進み、広い場所に入ってもどれほどいるんだと嘆いたくなる。


「わぁー、すごい人だね。おにいちゃん」


「あぁ、もう帰りたくなる」


「待って!デート終わっていないから」


「いや、デートじゃ――」


「デートじゃないんですか・・・」


「無くもない。これは予習練習のようなデートというのか・・・えーと」


涙目されると、どうにかせねばと俺の語彙データベースに適切な言葉を探すが、ひどい返答になった。出来れば小説みたいに書き直したい。


「ハァー、わたしどうして好きになったんだろう」


(お気持ちは察しますが、本人がいる前で言わないでくれ)


「おにいちゃんは、わたしといて楽しいですか・・・それだけ本当の気持ちで知りたいです」


人気ひとけが多いことにうんざりにした言葉を比翼は批判的に受け取ったかもしれない。


「分かりにくいならごめん。

高いテンションになれない性分だから表に出ないだけで楽しい。

比翼がいなかったらここまで

楽しいとは思っていない。一緒にいるだけでも楽しんでいる」


「そ、そうなんだ・・・あの、わたしもおにいちゃんと隣にいなかったら色褪いろあせたと思うから・・・」


照れ笑いを浮かべる比翼を見て安堵した。最初に出会った頃よりも素直になって、今までの選択は間違っていなかったと自信を持って

言える。


「もうれたいなぁ。

付き合えよ二人とも」


「いや、そういう戸惑わないから」


「そ、そうです!おにいちゃんとは付き合うレベルまでは・・・」


移山のお節介な言葉に比翼は羞恥に堪えず顔を下げて静かになった。おとなしくなったが時々と向く表情は気づけば向いている様子で目が合うと自覚した比翼がサッと地面を凝視。


「あっ、ここに第一の鳥居が」


どうにか脱したい俺は靖国神社で最も高い鳥居に指をさす。


「えっ?あ、本当だ」


顔を上げた比翼は少し驚く程度。


「よし、ここで豆知識だ。

大正十年に日本で一番高い鳥居だったんだけど昭和時代に新しく変わっているんだ」


「はぁ、詳しいんですね」


「無駄に知識はあるからなぁ兄者は」


なんだか仕方ないなぁってニューアンスに聞こえる。実際に呆れて苦笑している。おかしいなぁ、冬雅や真奈なら喜んでくれるのに。

あっ、比翼がお店を見ているなぁ。冬雅達と行けると思ったけどそうは問屋とんやおろさないか。


「おにいちゃん、冬雅おねえちゃん達のこと考えていたよね」


「ニュータイプか」


「ニュータイプがなにか知りませんけど上の空だったよ。

おにいちゃんが悩むのって冬雅おねえちゃんか真奈おねえちゃんって決まっているよ」


「そこまで確信を持つほどか」


「兄者、本当にシスコンでロリコンだったんなぁ」


「違う!・・・はず。

シスコンは認めるけど」


「認めるのかよ」


比翼と移山が賑やかで楽しそうなのは嬉しいが答えに難いの多くないかな?幕末志士の方たちがまつる神社って聞いたけど、けっこう広いよなぁ。俺と移山は比翼に食べ物など買ってあげる。


「おにいちゃん、おにいちゃん♪」


左にトウモロコシや右に綿飴わたあめを装備した比翼は言葉の最後に音符が付きそうなハイテンション。


「比翼なにかな」


「はい、あーん」


半分ほど減った綿飴を口に向けられて俺は口を開き、食べる。

口に広がる雲の甘さ端的に美味しい。そして比翼がもじもじと恥ずかしそうしながらも嬉しそうだった。減った綿飴・・・・・はっ!?


「大胆だよ比翼」


「う、うん。わたしもそう思った・・・間接キスってすごくドキドキするん

ですね」


そうだよなぁ、相手が期待や悶えて嬉しそうにするの・・・って、変態みたいなコメントじゃないか!

比翼と間接キスはドキッとしたけど冬雅ほど強い鼓動が高鳴る程じゃなく少し安心した。冬雅にドキッとする時点でロリコン確定だけど。


「兄者いつの間にか職業がラノベ主人公になっていない?」


「そんな職業があるか。まだ見つかっていないよ」


またニートになったから。


「そこは小説家になるとか言わないんだな」


「移山・・・」


寂しそうな表情をさせた。夢を知っていても応援もないけど、こうして落ち込むなんて。


「なにか勘違いしているけど

俺は諦めていないから」


意思は常にそうだと信じている。

気づかずに諦念しているかも

しれない。


「なら、いいんだけど」


「なれるよ。おにいちゃんなら」


「比翼?」


今まで羞恥に撃沈していた比翼が

真っ直ぐ顔を上げる。


「だって、わたしが大好きになったおにいちゃんはスゴイんだから。わたしが信じるから、が、頑張って!」


比翼の言葉に勢いがあって伝わりにくいところがある。けどそれを補うように懸命な表情と

真っ直ぐな瞳されたら。


「必ずなってみせる。

初志貫徹しょしかんてつを忘れていたけど比翼のおかげだよ。ありがとう」


「・・・・・う、うん。おにいちゃんの力になれたらすごくうれしいです」


比翼は感情が高ぶったのか涙を流して微笑する。振袖もあってラノベの挿絵さしえのような幻想的な美しさがあった。


「比翼こちらこそ嬉しいよ」


「えへへ、幸せです。おにいちゃん」


比翼の頭をでると、気持ちよさそうに目を細めて笑みをこぼす。


「いい雰囲気になるの早いなぁ。もう付き合えよ」


だから茶化ちゃかすのはやめてほしい。比翼が耳まで赤くなって「はうぅ」と唸っている。

でもおとなしくなった方がいいだろうか?そんな逡巡しゅんじゅんもしたが比翼はすぐに立ち直った。

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