第84話ユメウツツ

「おはようございますお兄ちゃん」


「ああ・・・おは・・・よう」


いつもの朝。俺が挨拶を発するのを

間があったのは、体調が関係する。


「お兄ちゃん・・・大丈夫ですか。

なんだか、苦しそうですよ」


「ああ、大丈夫・・・だ」


視覚に映るものがぐにゃとしている

ように見えるめまい。

身体が無性に寒く頭痛はする。

この病状は熱で間違いないだろう。

しかし冬雅の前では情けないところを

見せるわけにはいかない。

子供が大人に心配させるわけには

いかない。


「なんでもないよ冬雅。だか・・ら

安・・・心を・・・・・はぁ、はぁ」


「・・・お兄ちゃん今すぐ向かいますのでベッドで安静してくたさい」


不安と恐れ。憂慮ゆうりょの面持ちでドアを開けてどこか向かって

いく――血相を変える様と言葉からして此方こっちに向かっている。


「忘れているよ・・・

鍵が掛かっていることに。

それに朝食の準備とかしないと」


覚束おぼつかない足取りで

二階から階段を降りるのだが

重たく揺れているような感覚に

手に壁をつけて、なんとか

ゆっくりと降りる。

居間に、進むその瞬間ドアの施錠から

開錠が起きる。

ドアノブを握り引っ張る。


「お、お兄ちゃん!?

無理しないでって、わたし

言いましたよ」


「ふゆ・・・か?」


靴を脱ぎ前に止まり真っ直ぐ

身長差で、仰ぎ見る。


「勝手に入ってすみません。

前に合鍵が、ありましたので・・・

それよりも安静ですよ。さあ!」


有無を言わせない態度に俺は、

素直に戻ってベッドに入る。

天井を眺めながら思索に耽る。


(先の冬雅の行動力は迅速だった。

今日は学校があるにも関わらず

制服を着ないで寝間着まで来たのは

吃驚びっくりした。それよりも衝撃だったのが・・・合鍵で

入って来たこと)


最初の告白のしばらくして渡した鍵。

留守の時にいつでも入れるように

渡したあの鍵は、使っていたことも

あったがいつの間にか、使わなくなる。考えてみればその理由は

俺が冬雅達の訪れる時間を知っている

のだから使用頻度も自然に減り

忘れていた。とくに俺が。


「お兄ちゃん入りますね」


そう言ってドアの2回ノックする。

普通は、ノックからじゃないかと

思い頬を緩めそうになった。

返事も待たず入る冬雅の両手には

かゆが入った器とお箸。


「もしかして、冬雅が?」


「はい!お兄ちゃんのために

作りました。自信は・・・

無いですけど」


「けど冬雅が作ってくれ・・・

ゴホッ、ゴホッ」


「だ、大丈夫?」


顔を覗き込み不安そうにする。


「これぐらいなら平気だよ。

お粥を食べて冬雅のお弁当を作らないとね。時間は、まだまだ余裕がある

から楽しみにして―――」


「なにを言っているのですか

お兄ちゃんは!!この時ぐらい

作らないで・・・ねぇ。

昼は売店でもパンを食べます。

だからお兄ちゃんは、わたしのために何もしないでください。

わたしが面倒を見ますので!」


冬雅が、ここまで怒るのは否定するのは珍しい。いや、俺の事を思って発言をしたのだろう。


「・・・・・・」


「お兄ちゃん。ポカンとしていると

恥ずかしいですけど

お粥をフゥーフゥーしますねぇ」


冬雅の行動力に呆然としていた。

なんと形容すればいいのか・・・

冬雅は、日進月歩に変わっていき

成長をしていると感じる。


「冬雅・・・ありがとう。

自発的に行動を自ら考えるように

なって成長したね」


「えへへ、そうですか。

でもお兄ちゃんも成長していますよ」


「俺が成長?それはないよ」


「唐突な褒め殺しするようになった

のは、夏休みに入って。

他にもわたしに気配りがすごくって

嬉しかった。えへへ、お兄ちゃんと

長所をお互い言うなんて・・・

幸せで感無量な気分です!」


「でも、その程度だからそんな事は」


「ううん、料理の腕や小説も。

語り足りませんけど、まずは食事。

あれ?長く話しましたけど冷めていないか心配です」


冬雅は、すねの部分だけ床につけて

お粥をフゥー、フゥーとする。


「はい!お兄ちゃん、あーん」


「あ、いや・・・」


フゥー、フゥーとされた掬ったスプーンを口を入れることに俺は

躊躇・・・ではなく困った。

さすがに、駄目ではと思ったから。


「お兄ちゃん。わたし達は、か・・・間接キィィスゥ・・・した仲です。

で、ですので心配は無用です」


間接キスした仲って・・・。

そんな恥ずかしそうにされると

こっちも影響を受けて目を逸らすの

だけど、落ち着かないと。

俺の考えすぎだ。きっと、おそろく、

たぶん・・・どうして、口に入れようと自己暗示みたいなことしているんだ俺は?ええぃ、まぁ、まぁよ!


「いただきます。・・・あーん」


パクッ。咀嚼するたびに広がる

お粥の味。ですね、お粥だから。

しかし、素っ気ない味でありながら

少し甘い・・・これは―――


「ハチミツ!?」


「す、スゴイです!お兄ちゃん。

やはり、わたしのお兄ちゃんだねぇ」


「お兄ちゃんでは、ないけど」


冬雅は、そのあとフゥー、フゥーと

して口に入れ食べる。

徐々に羞恥心も無くなって疑問も

抱いていたことに後悔するのは

冬雅が皿洗いに行ったときである。


その冬雅は、洗濯などして、

家事を終えたら熱を測り、額に

冷たくしたタオルをあてる。


「・・・お兄ちゃん。

わたしは、学校に行かないといけません。かつてないほど悩みました」


「ん、冬雅?」


「休もうと考えました。

ですけど、お兄ちゃんが望んでいないことを思った。ですから

お兄ちゃんすぐに帰ります!

告白されても完全、無視します」


「そこは、ちゃんと返事してくれ」


今生の別れの雰囲気に何故かなってしまい冬雅は、何度も自室にドアを

閉めようとしては、戻すなど

していた。俺がツッコムまで。


目を閉じ睡眠を取り、小説をスマホ

で執筆して夕日が窓越しから自室を

照らす時間にガチャと開錠の音。

疑うこともない冬雅だ。

足音がどんどん聞こえてくる。

トン、トン・・・バタン。


「ハァ、ハァ。苦しくありません

でしか?寂しくありません

でしたか?

お兄ちゃん・・・喋れますか?」


まくし立てる冬雅。息切れしている

のは全力疾走で帰路にダッシュ

したのだろうなぁ。

ここまで、心配されると嬉しいようで

落ち着いてほしいと思うが。

素直に聞いてもらえないだろうなぁ。

今朝に、指摘しても「無理です」と

一蹴されたからなぁ。


「ほら、この通り元気だ―――

ゴホッ、ゴホッ!」


「わあぁー!?お兄ちゃんあまり無理しないでください。

今からタオルとお粥を用意します」


冬雅、急かしなく動き回る。

お粥を作って、今度は何度も

フゥー、フゥーとしてから口を運ぶ

例のあーんをされて。


食べ終え市販されている薬と水。

昔は、良薬は苦し、っとあったが

お菓子の味をする薬があるけど

良薬は甘し!だね現代は。

冬雅が、居間に走っていく。

すると、ピンポーンと来客を告げる

音が鳴るが真奈だろう。

しばらくすると、冬雅と真奈と

三好さんの三人が入って来た。


「お、お兄さん・・・大丈夫ですか」


真奈は、駆け足で向かい屈んで俺の右手を両手で優しく

包み憂いの瞳を向ける。


「ああ、平気だよ真奈」


「お兄さん無理は禁物です。

ワタシがしっかり看ますので!」


「・・・は、はい」


冬雅ではなく、真奈も無理をしていると断定する。本当に心配しなくても

高熱ではないし、ただの熱。


「ふふ、真奈さんは大好きな人のために必死に走ったのですけど

日頃の運動不足で

遅れたわけです」


「う、うん。心配だったので」


三好さんは、冬雅に親しげに話す。

冬雅というと無我夢中になった

事に恥ずかしがっていた。

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