第139話 ひそやかな対話
静寂。
「……」
黙る
「いや、改めて見るとさ、そんなに似てない気もするけどさ。なんか目の当たりが似てるような気がしなくも無いっつーか。ねえ、『
「……」
「他人から見たら似てんのかな? 俺、ちゃんと鏡を見たのは王家に入ってからだからさ。ソウにも会わせてみるかな」
「…………」
「ねぇってば」
少年の無邪気な問いかけに、三人は三者三様の反応をする。
シュンはぽかんと口を開け、痛みを忘れたようにシンを見ているし、ケイは目を閉じて天を仰いでいる。そしてカイは不貞腐れた顔で壁を見ていた。
「………………」
「?」
シンが首を
「打ち身の軟膏だ。今のうちに塗ると効き目が出る」
そう言ってシュンに渡す。
「あ、ありがとうございます」
ケイは次にシンに声をかけた。
「王太子殿少しお話が。
「……うん」
素直にケイの後を追うシンを心配してか、シュンが身じろぎする。それに気がついたカイが「俺が代わりに行く」と立ち上がった。
床に
「馬鹿だな。お前が来たら誰がシュンに薬を塗ってやるんだ?」
「え?」
ケイはそれだけ言うとさっさと扉を閉めてしまった。
外はまだ冴え冴えとした月の光が支配していた。隠れ家から少し離れると、いっそう広々とした世界が広がる。シンとケイは二人その荒涼とした世界に立っていた。
「さて、王太子殿」
「シンでいいよ」
「……そうもいきませぬ」
「ああ、
先程までシュンの心配をしていたわりに、彼女が目を覚ますと今度はあっけらかんと話す少年に、ケイは目を細めた。思い描いていた自信なさげな少年像とは違い、目の前の少年は芯のある性格のようだ。
「だって今は儀式でも式典でもないし。そういうお堅い場所ではさ、兄上の為にも失敗は出来ないでしょう?」
「王の為に、というわけですか」
「まあね。俺がちゃんとやる事やっていれば、昔の仲間は安全ってこともあるんだけど」
「ほう。まるで人質を取られているようですなあ」
「わかる? ま、酷い目にはあってないと思うんだけどさ」
そう言ってシンは自分が王太子になることを受け入れた経緯を話し始めた。
初めは貧民街の仲間の為と、好奇心——それから優しい兄王の為に励むようになって——。
「自覚っていうのかな。今でもふわふわと浮ついているように見えるんだろうけど、これでも自覚して王太子をやっているんだよ」
見上げてくる少年の瞳に月が映り込んでいる。友人に似た友人よりももっと幼い瞳。しかしケイの胸に訪れるのは木枯しよりも冷たく乾いた感情であった。
「——私の友人は少し
「ああ、うん。あれはなんで——?」
「言ってしまえば他人の空似です。彼の出自ははっきりしている。貴方と血の繋がりはないでしょう」
「……そっか」
——そうか。俺の血縁はやはり兄上だけか。
シンは少しだけ胸に宿った期待をそっとしまった。今さら血縁など現れるわけないか、と
「さて、
「……わかんない、けど」
「けど?」
「周家が何か企んでいるのはわかる!」
シンはニヤリと笑った。
つづく
次回『夜明け前の二人』
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