第136話 荒涼たる心
巧みに隠された道も、先導者が居れば道に見えてくるものだ。木々の間を抜けて行くと、突然目の前に広大な草原が広がった。
夜のせいか、月明かりに照らされたそこはどこまでも広がるはてなき荒野にも見えた。
昼間見れば金の枯れ草に覆われた草原も月光のせいで白く輝き、風にざあっと
——広い。
その広い原っぱの右手に人の手が入った台地があり、紫珠の建物が見え隠れする。植栽の巧みさによって向こうからは見えにくいのだろう。
シンは視線を広場の中心に戻した。
——月光の元、一人の青年が立っている。
剥き出しの岩の上に仁王立ちして腕を組んでいる。
『
その瞳に青白い光を見た気がして、シンは立ちすくんだ。
——なぜ? なぜこれほどまでに憎まれる?
今まで会ったこともない人なのに。
「降りろ、カイ」
『白兄』がそう声をかけると、岩の上に立っていた青年はひらりと眼の前に飛び降りた。より近くで見れば、背も高く威圧感もある。少年は負けじと精一杯見返すが、相手に効いている気がしない。
「——さて、シン王太子殿。ここまで素直について来て頂き、ありがとうございます」
「
「
二人の名を聞いて、シンは頷く。それからおもむろに口を開いた。
「早速だけど、教えてほしい。なぜ俺を目の敵にするのか?」
その言葉を聞いたカイが鼻で笑った。
「は! 孤児の出だってのに、随分と板についた物言いだな。王家の水は随分と合ったようじゃねぇか」
「なんだと!?」
流石にシンも激昂する。
「あんたら貴族に俺たちの暮らしがわかるもんか!!」
毎日満足に食べることもできず、物乞いや盗みで暮らして行く日々。シンの知る娘は最後には身を売って他の子を育てていた。
だが黒衣の青年は冷たく言い放った。
「俺は貴族じゃねえ」
カイの返答にシンの叫びも止まる。
そういえばこの青年は家名を名乗っていなかった。
「俺は奴隷の身分だ。お前らよりももっと自由の無い飼い犬さ」
シンは驚いて『白兄』の方を顔を向けた。
「まあ、そうですけどね。けれど私の腹心の友というのも嘘ではありません」
従者にして友。
一風変わった二人の関係を聞いて、シンは目を閉じて振り上げかけた手を下ろした。
「——それで? それが俺を憎む理由なのか?」
つづく
次回『激突』
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