第130話 王弟の立場
「きゃあああっ! 『
さっきまで『
カイ兄に届くように、と。
そして初めて武芸試合を見たシンは——。
圧倒されていた。
決勝戦の試合に。
それまでの試合が
我知らず立ち上がり、シュン
ふり仰げば、そこには険しい顔をした
「あの……?」
「あ、これは申し訳ありませぬ。……このような時には、立ち上がりはせずに軽い拍手で済ますのが良いでしょうな」
どうやら敵対する
シンは横目で花蓮を盗み見た。
まだ、彼女がきゃあきゃあとはしゃいでいるのを見ると、自分だけ座らされたのが馬鹿馬鹿しくなる。
シンの不満に気がついた何大臣が、即座に娘を
「花蓮、大声をあげてはしたない。もうやめ——」
「ねぇ、見た!? シュン!! 『白兄』がこっちを見たわ!! 私、目が合っちゃった!?」
「え? ほんと?」
「本当! 本当なのよー!」
実の娘に無視されて肩を落とす大臣を見て、シンは心の中で
「授与式?」
拍手の後、聞きなれない言葉にシンが問い返すと、何大臣が説明をする。
「優勝者に褒賞を与える儀ですな。なに、賞与は
と、いうことは、あの黒衣の青年——『墨兄』を間近に見る事が出来るわけか。シンは
「斬られないといいな」
ソウがニヤニヤと笑う。ただの冗談だったが、何大臣はキッとソウを睨んだ。
「我々の警備を甘く見るでない。ましてや
「冗談だってば!」
ソウは小さくなって何大臣の視界から隠れようとシュンの背に逃げ込んだ。
そこへ、花蓮は花開くような笑みを浮かべながら、父に話しかける。
「お父様、私達も一緒に行っても——」
「駄目だ。こればかりは許可できぬ」
花蓮が甘えても怒っても、何大臣は
「ちぇっ、なによう。私も近くで『白兄』様を見たかったのに〜」
「勝ったのは『墨兄』よ」
「でも二位の『白兄』様も近くにいるでしょ?」
「それはそうでしょうけど」
「いいなーいいなー」
羨ましがる花蓮を
この先、しばらくシンと会う機会もあるまいと、シュンは別れ際に彼に声をかけた。
「シン——あのお二人は——……」
と、言いかけて口を閉じる。尊敬できるお方だと言おうとしたが、それが自分にとってでしかない事に気がついたのだ。
お祭り気分で浮かれていたが、ソウが冗談で言ったことが起きないとは限らないのだから。
「シュン姐?」
「いえ、ごめんなさい。なんでもありません」
シュンは少し
——困ったお嬢さんだな、まったく。
つづく
次回『対面』
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