第124話 孤独に差し込む明るい光

 ——カイけいの黒布……。


「…………」


 シュンは咄嗟とっさに声が出なかった。しかしシンは無邪気に問いかけて来る。


「あの人だけ口元を覆っているでしょう? なんで?」


「ええ……ええ、そうですね」


 あまりにも虚をつかれた問いに、シュンは情けなく同じ言葉を繰り返す。シンはただの好奇心からじっと彼女を見つめて答えを待っていた。


「……あの方は、貴族や商家の出ではないそうです」


 改めて自分の口からカイの身分を語る事の馬鹿馬鹿しさよ。わかっている事なのに、何故こんなにも不快感が胸を覆って来るのか。


「と、いうと?」


「……『白兄はくけい』の御従者であると伺っております」


シンの口から次に出て来る言葉に恐れを抱いて、シュンは目を伏せた。がっかりするだろうか? それとも、そ知らぬふりをして流すだろうか?


「すっげーなぁ!」


「え?」


 知らず口調が重くなるシュンの気持ちを吹き飛ばす明るい言葉がシンの口から飛び出した。今度はシュンがシンの顔を正面から見返す。少年の目は輝いていた。


「すげえじゃん、あの人。そういう身分なのに、あそこに立ってるって事はさ、すごい強いんだよ。俺もあんな風に強くなりたいなぁ」


 シンの明るい言葉に、シュンは目を見張る。暗雲が光に切り拓かれた思いだ。なんと素直な言葉なのだろう。


「そう! そうなの! 私もあの方のように剣が強くなりたい……!」


 思わずシンに同意する、うわずった声が出る。押さえつけていた心の声が飛び出した気がした。


 それは何という心地よさか。


 同じ考えを持つ者への同意と喜びは実はシンも同じである。


 ——やっぱシュンねえはわかってるなぁ。


 大臣の手前、かろうじて声に出さず、シンは目配せでソウに合図する。ソウも笑って「わかるぜ」と目で返して来た。




 つづく


 次回『籤引』

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