第98話 ケイの詰問


「何をしてるんだ、お前らは」


 カイとシュンの二人は、ケイの前で正座をさせられている。衣服は整えたが、シュンは顔を赤くして、ひたすらうつむいていた。


 その一方でカイは不貞腐れたようにそっぽを向く。


「この隠れ家は、そういうことをする部屋じゃあない」


「……うるせぇな」


 ケイの叱責に、カイはぶすっとしたまま文句を呟く。


「カイ!」


「…………」


 ケイは珍しく大声を上げた後、ふう、と息を吐くと長めの前髪を掻き上げた。


「……それにしても、お前達がそういう仲だとは知らなかった」


 突然の事に驚いてしまったが、ケイの心の何処どこかには少し感慨深いものがある。自分にすら気付かれないように、この二人が——奥手そうなこの二人が、その様な気持ちを育んでいたかと思うと、二人の仲を反対するのが辛くなる。


 しかしその複雑な心境を汲み取りもせず、カイが慌てた様に返事をした。


「いや、そういう訳じゃ無い」


 ケイは逆に驚いた。


「違うのか?」


 今度は縮こまっているシュンに問う。


 シュンは顔を赤くしたまま、その顔をケイから逸らした。


 返事は無い。


 もっとも肝心のシュンは、いきなりの行為にまだ頭の中が混乱している。


 ケイは不穏な返事をしたカイに向き直る。


「そういう仲では無いのに、お前は手を出したのか?」


「あー……まぁ」


 言葉を濁すカイの態度に、ケイはようやく事態が飲み込めて来た。


 はじめに部屋に入った時、薄いしゃの布越しにうごめく男女の姿に目を疑い、すぐに誰であるかを察して驚愕した。思わず怒鳴ってしまったが、まだ二人の仲が成就していないのなら、やはり止めてよかったとも思う。


「……わかった。シュン、君は行って良い。寮に戻って休みなさい」


「……はい」


 シュンはまともに『白兄』の顔を見れず、かぼそい声で返事をすると、そのままそそくさと部屋を出ていった。






「さて、問題はお前だ」


 ケイは腕組みをして咎める目でカイを見た。さすがにカイもこちらを向く。


「何が問題なんだよ」


「恋仲でも無いのに手を出すからだ」


「うるせぇな。お前だってそういう事あるだろ」


 カイは、目の前の主人にして友人のケイが多数の女性と深い仲である事を知っている。それが全て遊びだとも知っている。


「私は相手を選んで付き合っている」


 いわば遊びと割り切ってくれる女性を選んでいる、という事だ。


「なんでお前は事をやって良くて、俺は駄目なんだよ?」


「いまさら何を言う。お前の相手をした女が、後々のちのち言いふらさない為だ」


 特に王太子と入れ替わって、王となった後に関係を持ったと騒ぐ輩を出さない為である。


「あいつがそう言う事をするもんか」


「シュンの事をそう言っているんじゃあ無い。では、お前はシュンのことを——気に入って手を出したのか?」


 ケイは「シュンのことを」とは言えなかった。恐らくそうだとわかっていても——いや、わかっているからこそ。


「…………」


 カイは答えない。


「わかっているのか? そこらの遊びなら事後に斬って捨てる。周公はそれなら良いと言うだろう。だがシュンを斬らせるわけには——」


 ケイがそこまで言った時、カイは脇に置いていた自らの剣を手にした。


 無言のまま、それをすらりと抜く。


 その速さにケイは驚いた。僅かに身を引いて「何を——⁈」と言う間に、カイは座したまま自らの頸の後ろに白刃を置く。


「あいつを斬るなら、俺はこの首を落とす……!」





 つづく



 次回『困惑の日』

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