第70話 男子寮にて
王族専用の棟で大きくはないが、
今回は警備の人員も殊更多く、この棟の一階は警備の者達の詰所となっていた。ただし、王太子に付いて校内に入れる警護のものは二名までとされ、交代で二名の衛士がシンに付いて回っていた。
「昨日は王太子様を見失う失態があったが、今日は目を離さなかっただろうな?」
警備責任者の
「は。本日は無事、宿房へ入られました」
衛士の返事に重々しく頷きながら、続けて指示を出す。
「全く、初日からあれではたまったものではないな。明日もしかと目を離すでないぞ」
「はっ!」
衛士達を下がらせながら、
これだから、平民上がりの王族などと
「今日の授業は、あのお姐さんのおかげで助かったな」
ソウが嬉しげに話しかける。シンもそうだとばかりにうなずいた。
「ああ、あの人以外は皆、妙な目付きでこっちを見てるからなぁ」
——学校って、
シンは兄王も学んだという教練校について、「国王様は教練校において、御学友達とお知り合いになり、今の国政に多大な協力を得たのでございますぞ」と聞かされていたのだが、とても『御学友』が出来る雰囲気ではない。
「そういや、
ソウは助けてくれたシュンが、自分達と同じく周りの者と馴染んでいない様子を嗅ぎ取って、衛士の
「シュン
ソウは広い
「街では皆一緒くたに育ったけどな。ここでは男女別だぜ、変だよな」
シンとソウが育った街では、男女の区別なく皆が働いていたし、強い姉御肌の女性もいた。気も強いが腕っぷしも強いと言う
「
シンはそう結論づけた。
「それにしても、あのお姐さん——午後は見かけないな」
「同じ講義じゃないんだろ。でも弓道場にもいなかったしな……」
二人は今日も弓道場を覗いてみたのだった。
「ま、いいや。明日また会えるだろ」
ソウは疲れたのか、もう眠そうだ。シンは「そうだな」と答えると、燭台の明かりを消した。
しばらくするとソウの寝息が聞こえて来る。慣れない環境が余計に疲れさせたのだろう。
シンもまた疲れてはいるのだが、何だか寝付けない。
——きっと思い切り身体を動かしていないからだな。
少しだけ、と自分に言い聞かせながら、シンは窓辺に近づいた。
少しだけ身体を動かして、戻ってこよう。
少年は窓の掛け金を外すと、凝った造りの窓板を開いた。
冴え冴えとした月明かりが、差し込み、目の前の大きな木を鮮やかに浮かび上がらせた。
物音を立てないよう気をつけながら、シンはそっとその大木に手を伸ばした。
つづく
次回『夜の散歩』
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