第58話 兄王
シンは思い返す。
一度目の対面はこの王宮に来た日。
この時は玉座での対面であったが、今日は自室で会うのだという。
見舞いなら何か持っていくものだろうに、
だからシンは友人のソウを連れて行くだけである。
ここのところずっと東宮に閉じ込められていた二人は、勉強と武芸の繰り返しで少し
東宮から出られると喜んだのも束の間、王宮の中は似たような景色が続き、慣れない二人は結局、自分達が
階段を登ったり下ったり、中庭を通り抜けたりしながら、彼らは
部屋の中には思いの
更に奥の間へ進むと、その部屋はむっとするほど暑かった。病人の為に暖められた部屋は
慌てて二人も真似をする。
「陛下、太子様をお連れしました」
「すまぬな、
「
そう声をかけられて、シンは
久しぶりに会う兄王は、以前よりも痩せた感じがする。だが優しげな微笑みは変わらない。
シンは素直にそう思った。
「シン、無理をさせてすまぬな」
「……」
どう答えて良いのかわからず、シンは黙って兄王の言葉を聞いていた。
「一通りの勉強は済んだそうだね?」
シンはうなずく。とにかく頭の中に詰め込んだだけだが、確かに一通りの事は学ばされた。身についているかどうは怪しいが。
「実はね、私が
「学校……?」
「ああ、同世代の者達が学ぶ場所だよ。シンもそこで少しの
「まだ勉強するの……ですか?」
シンは少し眉を寄せた。これ以上勉強させられるのかという不満が、少しだけ漏れてしまった。
意外にも兄王は微笑んだ。
「ふふ、勉強よりも同世代との顔つなぎだね。出来れば味方を増やすと良い。そればかりの人では無いのが大変だよ。でもいろいろな経験が出来ると思うんだ。武術も馬術も——」
それを聞いてシンの目が輝いた。
(馬に乗れるのか!)
「良い事も悪い事も感じて来て欲しい。君はこの国の貧しい部分も知っている。今度はその反対側に、どんな人がいるのか見てくるのだ」
兄王との会見はそれで終わった。
「学校……かぁ」
ソウが心配そうにつぶやく。シンは励ますように声を高くした。
「でも馬に乗れるみたいだぜ!それに
努めて明るく話す二人に
「大王様がおっしゃった通り、味方ばかりではありませぬぞ。味方に見えてそうでない者もいる。
「おい、待てよ。なんでそんな危険なトコ連れてくんだよ」
ソウがくってかかる。
「王太子のしきたりの一つなのだ」
つづく
次回『紫珠校の春』
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