第59話 紫珠校の春
若い時から、平民の
王太子自らも同世代の者達の観察をするが、同時に相手からも次世代の王として観察される事になる。
「安心せい。形だけのものだ。周りも
「……そんなら心配ないか……?」
ソウは首をひねる。シンも複雑そうだ。
勝手に『学校』に連れて行って、命を狙われるって、何なんだよ。
(やっぱり、街にいた方が良かったかな)
そんな事を思っても、やはり王宮の外に出られるのは楽しみだ。
シンは馬に乗れる授業の事だけ、考えることした。
女子寮にも春は訪れていた。
庭の花々が咲き誇り、華やかさが増す。春には入学者と入寮者が幾人かやって来るので、その新しい顔ぶれも賑やかさを増す原因かも知れない。
シュンの部屋に同室者は入らない事となった。初の女子の上級生というので、特別に一人部屋の扱いとなったのだった。
上級生になる件については、寮監も寮母もとても驚いていたが、彼女ならそれもあり得るかと納得もしていた。
「この寮の有り様を考えると、あまり手放しで褒められる訳ではありませんけどね」
寮母はそう言ってシュンを
それでもシュンは嬉しかった。
その心持ちをそのまま手紙に
驚きと呆れと、遊べなくなった事への怒りと、でも嬉しいという言葉と祝いの言葉とが書き綴ってあったので、シュンは思わず笑ってしまった。
ただ、カイ兄と白兄に報告した時、白兄の様子が妙であったことが気にかかるが、今のところ身辺に変わった事はなかった。
それに今日からは上級生の受ける本科が受講できるのだ。シュンは少し浮き足だって女子寮を出た。
上級生の校舎に入ると、やはり皆、ぎょっとしたようにシュンを見て、その後は物珍しげに遠巻きに眺めている。シュンと同様に今回上級生になった者もいたが、別段近づいてくる者もいない。
(覚悟してはいたけど……皆、心が
友人のいない場所で、少し
「カイ兄!白兄!」
「やあ、来たね。おめでとう」
「ありがとうございます」
見知った顔に会えて、シュンは心から喜んだ。ケイは優しげに微笑んだ。
「君には
「はい、白兄。感謝致します。……あの……」
少しだけシュンは言い
「何だ?早速何かあったのか?」
「……本家の方は、何かありましたか?」
「何もないよ。君は気にしなくて良い」
ケイは少し困ったように微笑むと、「では」と背を向けた。その後ろにいたカイは相変わらず黒布で口元を隠していたが、片手を上げて「頑張れよ」とシュンを励ます。その
去っていく二人の背に向かって、感謝の一礼をすると、シュンは教室へ向かった。
つづく
次回『容貌』
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