第35話 新年の儀


 数日後、教練校の寮が開く日がやって来た。シュンはサッサと荷をまとめると、父に敬々うやうやしく挨拶して家を出発つ。


 この時ばかりは父も号泣して見送ってくれる。異国に旅立つ訳でも無いのに大げさだ、とシュンは苦笑いする。


 だが逆に何の反応もなければそれはそれで寂しく思うのだろうと、シュンは反省する。何より父の後押しがなければ教練校に行けないのだから。



 寮の部屋に入ると慣れ親しんだ「家」のがする。まだ花蓮は来ていない。新年の開校の式が始まるのは明後日あさってだ。


 式は新年の始まりという事もあって、全学生が出席する決まりとなっている。


白兄はくけい』と『墨兄ぼくけい』が来るかどうかはわからないが、来る可能性はあった。『白兄』が主席であるなら、学生代表の挨拶があってもおかしくは無い。


「みつけなくては」


 それが今のシュンの成したいことであった。


 その目標はシュンの気分を高揚させる。シュンは気分がたかぶるついでに木剣を手に取ると、素振りするために戸外へ出て行った。





 教練校の新年の儀式が始まった。


 普段は下級生が入れない広い演習場に皆が整列する。


 男子が前列に出て、人数の少ない女子は後列に下げられる。


 その後列の一番前に相変わらずの男装でシュンは陣取った。特に女子は並ぶ順番など決まっていない。


 なので、すました顔で移動し、男子の上級生の列の後ろに、女子の先頭として立っているのである。


 探す相手は目立つ姿だ。


 白い姿は見つけやすい。程なくシュンは『白兄はくけい』を見つける。しかし『墨兄ぼくけい』がいない。どうやら今日は『白兄』の側にいないと見える。


 傍目にはわからぬよう必死で探していると、やや遠くを横切る黒衣が目の端に入った。


 それだけで心躍る。


 見失わないように慌てて視線を戻すと、やはりそれは『墨兄ぼくけい』——カイであった。


 いつも通り鼻先から口元までを黒布こくふで隠し、目立たぬよう列の端の最後尾にいる。


 ここからなら見失う事もなさそうである。


 懐かしい後ろ姿を目にして、シュンは胸が熱くなった。




 つづく


 次回『少しの思い出を』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る