第36話 少しの思い出を
シュンには後ろ姿でもそれとわかる。
すらりと背が高く、背筋を伸ばして腕を組んだまま、じっと前方を見据えている青年。
他の者が所々で知り合いと新年の挨拶を交わしている中で、一人微動だにしない。
雪山を登った時も、あの背を見ていた事を思い出す。
あの時は大きな
その剣を手渡された時のことが鮮やかに蘇る。
と、急に生徒達が
女子がざわめき、改めて『白兄』の人気にシュンは驚いた。昨年までは全く興味がなく、その存在に気づかなかったのだから、シュンの方もどうかしているのだが。
(私は自分の事ばかり考える人間であったな)
新年早々、一人反省する。
新年の宣誓は、この教練校において自分の望む修科を真面目に取り組み修めることを誓うものである。『白兄』は朗々とよく通る声で宣誓し、学生達に自己研鑽を促して終わった。
その後は式の解散が言い渡され、
シュンは一つ大きく息を吸うと、気配を消した。
カイ
カイは既に学舎へと足を向けている。
シュンは距離をとって、カイの後を
気付いている様子は無かったが、カイは
長い廊下を進むと、やがて旧学舎とをつなぐ渡り廊下へと出る。ここは造りが古く、木造である為床が
シュンはカイに気付かれぬよう、更に距離を取る。
旧学舎にカイ達の言う『
渡り廊下を渡り切ると、再び頑丈な石造りの床に変わる。足元に注意していた為に、シュンが顔を上げたときには、遠くの薄暗い廊下の角をカイが曲がって行くのが
少し足早にそちらへ進む。
旧学舎は既に使われていない為、窓という窓や戸を板で打ち付けてある為、非常に暗い。打ち付けた板の隙間から少しの光が差し込んで、すこしずつ目が慣れてくる。
カイが曲がった角は来ると、そこはまた長い廊下で、カイは既にその突き当たりに到着するようである。
(離された)
と、思いながらシュンも後を追う。
カイは廊下の突き当たりを右へ曲がった。
遅れてシュンもそちらへ曲がる。
階段がある。上の方に気配を感じてそちらへ行く。角の壁から窺うと、また奥へ廊下が伸びていた。
(なるほど、この学舎では使用するのに不便極まりない)
使われなくなったのも無理はない。増築に増築を繰り返したらしく、横長の学舎が所々曲がりながらずらずらと続いているのだ。
シュンはカイの後を追う。
途中、真っ直ぐなはずの廊下がカギ状にずれていて彼の姿を見失う。
それでも落ち着いてそのまま先に進んでいるだろうと、見失ったずれた廊下を曲がると、そこにカイの姿は無かった。
ただそのすこし先に小さな堂があるのが見えた。花蓮が言っていた『怖い御堂』であるのだろう。
ボロボロの堂は入り口の額が外れて下に落ちたままになっている。
(なるほど。これは人が近寄らない場所だ)
御堂の引き戸は半ば破れ、ますます廃墟の様相が強くなる。
シュンはその御堂に、そっと足を踏み入れた。
つづく
次回『御堂の秘密』
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