第34話 花蓮の妄想


「ねー、あれでしょ?『白兄はくけい』でしょー?」


「ち、違っ……」


 シュンの心臓が跳ね上がる。彼女の否定を無視して、花蓮は続ける。


「わかるわー。ウチとは仲良くないけど、もう王子様って感じだもん」


「待って、仲良くないってどう言う事?」


周家しゅうけ何家かけはそれぞれ右大臣、左大臣の家柄だからね。表立おもてだって対立してないけど、仲良くもないわね」


 やや残念そうな花蓮の答えに、シュンは小さく「そうなんだ」とつぶやいた。


 と、するならば、『白兄』の家と、何家かけに付く張家ちょうけもあまり「仲良く」とはいかないのかもしれない。


「でもね、シュン。例えばなんだけど、この二大勢力が手を結ぶとか、政略結婚とか、そういうので私が『白兄』と結ばれる——という話はどうかな?」


「ええっ!?そんな話があるの?」


 シュンは驚いて聞き返す。


「ううん、私の妄想」


 その悪戯いたずらっ子のような笑顔に、シュンは吹き出した。あまりに笑うので、花蓮が起こり出す。


「もう!いいじゃない、それくらい夢見たって」


「そう、そうね」


 笑いながらシュンは答える。


 と、花蓮は急に真面目な顔になった。


「あのね、シュン。これは本当の話なんだけど……」


 少し口籠くちごもる。どうしたのかといぶかしがるシュンは、彼女の顔を覗き込む。


「私、今年のうちに輿入こしいれの儀があるらしいの」






「こ、輿入れって……結婚するって事?」


 シュンは目を丸くして聞き返す。


「相手は誰?」


 肝心な事を聞かねばと勢いこむシュンに、花蓮は不服そうに言う。


「それがさぁ。チラッと聞いただけなんだけど、相手まではまだ……」


 わからないのだと花蓮は口をとがらせる。


「だからさ、ちょっとくらいこう、好きな人とかっていたら良かったなって思う」


「……」


「いやー、いない方がいいか。未練とかないもんね」


 あはは、と花蓮は笑った。複雑な顔をするシュンに向かって、


「そんな顔しないでよ。シュン、明日あすとつぐわけじゃないのよ」


 と明るく言う。


「うん、ちょっと寂しくなった」


「ええー?うれしいなあ、あはは」


 花蓮はからからと笑った後、「相手がわかったら知らせるね」と約束した。




 つづく


 次回『新年の儀』

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