第33話 何家の新年会
正月の
教練校へ戻るのはその後である。シュンは早くも家でおとなしくしているのに
そこへ折りよく父が「
「シュン!」
聞き慣れた声が大勢の客の間から飛んで来た。
「花蓮、あけましておめでとう」
「あけましておめでとう。来てくれたのね」
「父について来ただけだよ」
「これはこれは、相変わらず
「シュンのお父様。ありがとうございます」
きゃっきゃっと喜びながら、花蓮は礼を言う。その愛らしい姿を眺めながら、シュンの父がはため息をつく。
「全く。ウチの娘も見習って欲しいものです。正月くらいお洒落したとて良いでしょうに……。なんだってこんな
そして嘆かわしげに首を振る。
シュンは相変わらずの服装であったが、いつもよりは袖がゆったりとした物を着て、上衣も刺繍の多い物を選んでいた。
「す、少しは着飾ってみたのですが?父上」
「そんなのは着飾るとは言わん」
「シュンのお父様、そんな事をおっしゃいますがシュンは学校ではとても慕われていますのよ」
「ほう、誰にです?」
「そうねぇ、女子の下級生かしら」
シュンの父は盛大にため息をついた。
「嘆かわしい。そのような事のために学校へやったのではなかったのですがな」
父の嘆きに
「父上、私はちゃんと武芸のために学校へ行っております」
すると父は苦虫を噛み潰したような表情をする。
「その他に史学、漢学、算学、法学もな。女役人の道でもあったら、わしだって何も言わんが……」
シュンが何か言い返そうとしたその時、
「いやいや、シュン殿。昨年は非常に助かりましたぞ」
と夏の終わりの泥棒騒ぎを暗にほのめかすと、シュンの父親は更に苦い顔をした。
「お止め下され。褒められると
「何を言う、
「それは、まぁ……」
そこへ花蓮が無邪気に尋ねる。
「お父様、あの蔵に入っている物は何なの?」
花蓮の父はその右腕と呼ばれる張令とサッと目を合わせると、
「さあ、お前たち二人は宴の席へ行って、好きな物をお食べ。私達は仕事の話もあるからの」
と、連れ立ってその場を去って行った。
「何よーもう!いつも子供扱いして!」
花蓮はふくれっ面だ。
それを取り成すかのようにシュンは花蓮の装いを褒める。
「花蓮はいつも素敵ねえ」
「あらあ!やだ、珍しい!シュンが服に興味を持つなんて。
「そ、そうかな?」
言われ慣れない事を言われて、シュンは照れた。花蓮はニヤニヤ笑っている。
「何?」
「いーえ、何があったのかなあって思っているのよ」
「別に何も……」
「いやいや、いつものシュンならもっと
シュンは内心ギクっとした。
意識していなかったのだが花蓮に指摘されると、それが自分の本心ではないかと思ったのだった。
つづく
次回『花蓮の妄想』
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