第30話 あの二人に会うために

 

「もう、何それ。シュンはいつもそればっかりよね」


 花蓮は、磨けば光るだろう友人にいつかふわふわと揺れる裳裾もすその服を着せてみたいと思っている。年頃の女の子が何時迄いつまでも剣だとか言っている場合ではないと言い聞かせているのだが、友人は一向にその気がないようだ。軽くため息をつくと、花蓮は続けた。


「でもお二人は上級生だし、授業はほぼ自由選択でしょう?武術の修科についてはあなたの方が詳しいんじゃないの?」


 それはそうなのだが、シュンは今まであの二人を校内で見たことはない。やはり上の課程を取らねば会えないだろうか。


「でも女子の中では何人かがお二人に近づこうとして…というより『白兄はくけい』に近づこうと跡を付けたもいるのよ」


「えっ?大胆ね」


「単に声を掛ける機会をうかがっていたみたいなんだけど…」


「何?」


 花蓮のもったいつけた言い方に、シュンはつい引き込まれる。


「いつも途中で見失うそうなの」


「校内で?」


「そうよ」


 そんな馬鹿なことがあるだろうか。


 そう思いながらもシュンはすぐに考え直す。


 あの方達なら尾行などいてしまうかも知れない、と。


 それでもこの教練校の学内で、そんなことが出来るのか。


 そこへ、思い出したように花蓮が付け足す。


「もしかしたら旧校舎の方へ行っているんじゃないかしら、とそのは言っていたわね」


「旧校舎?」


「ほら、ほとんど壊れていて立ち入り禁止の…なんだか知らないけど怖い御堂があるという噂の…」


「ああ」


 それなら流石さすがにシュンでも知っている話だ。なんでも旧校舎には戦で勝ち取った生首がまつられている場所があるのだと、所謂いわゆる学校の怪談として此処ここの生徒なら一度は聞いたことがあるはずだった。


 そこまで聞いて、シュンは口の端を曲げて歪んだ笑いを作った。幸い花蓮は目にしなかったが、見たら何という表情かおだと叱責されそうな、薄ら寒い笑いだった。


 そして聞きとれぬほど低い声で呟く。


「なるほどね」




 翌日から、シュンは『白兄』と『墨兄』の姿を校内で探し始めた。しかしそれはなかなか難しいと言う事がわかっただけであった


 二人は寮生ではなく、通学生という事であったが、彼らが登校してくる時間帯は女子寮の朝の教務(掃除や食事)で、シュンは自由に動けなかったのである。


「ではやはり探すなら講義かしら」




 つづく


 次回『探索』

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