教練校にて

第29話 花蓮の噂話

 

「『白兄はくけい』はその家柄とたたずまいから白王子とも呼ばれるほどの全女子の憧れの的なのよ」


 そう言うと花蓮は部屋の中央でくるりと回った。


「もちろん人品卑じんぴんいやしからず、君子にして学業も申し分なし。勉強だけじゃなくて、武芸百般なんでもできる、というお方なのよ」


 他人の噂をまくしたてられても、いつもならシュンは「ふうん、そうなんだ」としか思わないのだが、今回は違う。


 確かに花蓮の言う通りの人物であったと思い返す。


「繊細で優雅、それでいてお強く出自も良い。これで憧れない女子はいないでしょおおお!」


 やけに花蓮の説明に力が入っている様な気もするが、シュンが思い出すのは、立ち振る舞いが優雅でありながら一分の隙もない『白兄』の姿だ。


「それに対する『墨兄ぼくけい』は白王子の側に付いている黒剣士ね。とにかく対称的なの。粗野で精悍、まとっているのも黒衣で口元も隠している。いわば『白兄』の影ね」


 影——。


「とはいえ同じく武芸百般に秀でているのは間違いないらしいわ。強いのよ。だからこちらは武を目指す男子の憧れの的。武芸を修めようとする者は『墨兄』を尊敬しているわ」


「なるほど」


 ようやく口をはさめた。


「でも対称的なのはそれだけじゃないのよ、シュン」


「何?」


 思わせぶりな花蓮の口調につい引き込まれる。


「その立場よ。なんでもそもそもは『白兄』のお付きの者だったそうなの」


 お付きの者——従者だ。


「では『墨兄』は何処どこかの家人かじんではないの?」


「そうよ。周家の使用人ということなんだけど、その武の才能を認められて『白兄』と共にここにいるそうよ。まァ身分の差があるから遠慮して顔をさらしていないのね、きっと」


 そのような意味があったのか、と、シュンは内心衝撃を受けた。しかし『白兄』とカイ兄のやりとりを見ていた限り、主従というようには見えなかったが…。


 それを口にすると、花蓮はことも無げに答えた。


「それはやっぱり強いからじゃないの?身分が低くてもこのさき戦場に出て出世することだってあるでしょうしねー」


 花蓮は楽しそうに話しを続ける。


「それで、それで?お二人とお話ししたの?」


「うん。班を組んでいただいた」


「え〜っ!なにそれっ⁈」


 シュンは詳しく話すと面倒な事になりそうだと話しを切り上げる事にした。話題の方向をずらしてみる。


「ねえ、花蓮。お二人に会うにはどうしたらいい?」


「何それっ?!シュン、あなたまさかっ?」


 花蓮はすぐ恋愛の方にもっていこうとする。まあそれが普通なのかもしれないが。シュンは笑いながら否定した。


「違うよ。出来れば剣術を師事しじしたいと思ったの」


 それを聞いた花蓮はがっかりした。




 続く


 次回『あの二人に会うために』

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