第28話 情というもの


 カイ達が兵士たちに付き添われながら教練校に戻ると、シュンとメイは再び礼をしてそれぞれの学舎へと戻っていった。


 カイとケイがただそれを見送ったのは、ケイの立場上、学長の出迎えを受けて人々に囲まれていたからだ。


 ケイが学長らに挨拶をすませると、二人は連れ立って自分達の学舎へと入る。いつの間にかカイは再び黒布で口元を覆い隠している。彼が学舎の二階から窓の外を見ると、折良くシュンの姿が見えた。


 何家かけの娘らに迎えられている。あんな笑顔はついぞ見なかったな、と少し腹がたつ。


 カイは何気なにげなく見ていたが、急にケイに話しかけた。


「あいつの事はもう構わなくて良いんだな?」


「どうした、唐突だな」


「もう俺たちの事に巻き込まなくても良いんだろ?」


「お前の事も気がついていないようだしな。ただ——」


「ただ、なんだ?」


「何家に入る手段として利用できるかもしれぬと、が判断する可能性がある」


 カイは射干玉ぬばたまの瞳をケイに向けつつ、舌打ちした。


「お前が進言しなきゃ、そんな話は出ないだろ」


「どうした?一晩抱いて、情でもうつったか?」


 ケイのからかうようなその言葉に、カイはカッとなった。


「お前、馬鹿なことを言うなよ。抱いてねぇよ。他人ひとが聞いたら誤解するような事を言うな」


「訂正する。正しくは『肩を抱いて情がうつったな』だ」


「ケイ、てめえ…」


 カイが珍しく本気でにらんでくる。


「冗談だ、冗談」


 からかい過ぎた、とケイはその矛先を引っ込めた。これ以上からかうと、背中の剣を抜くかもしれない。


「…っと、私たちの剣を納めてこなくてはな」


 城内——学内の帯剣たいけん流石さすがに許されてはいない。


 せいぜい持ち歩くのであれば木剣となっている。二人は無言のまま剣を外し、預かり所へと向かった。





「ええっっっ⁈本当に『白兄はくけい』と『墨兄ぼくけい』に会ったの?」


 寮の部屋で、シュンは友人の花蓮カレンに行軍の事を話していた。


 信じられない、と言うように花蓮は目を丸くしている。一方のシュンは、やはり花蓮はなんでも知っているのだと感心していた。


「ええっ?知らなかった?って、どれだけうといのよ。そのちっちゃい子が言ってた通り、校内では有名人よ」


「でも男子の間だけではないの?私は聞いた事無いけど」


「し、知らないですってェー⁈」


 花蓮は目をいて今にも倒れそうだ。


 まぁ、倒れてもこの部屋にはしょうも有るし大丈夫だとシュンは頭の隅で考える——。



 つづく


 次回『花蓮の噂話』

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