第27話 周家の者


 一刻いっこくほど進むと、やがて前方から人声がして数人の男達が現れた。


「あっ、先生!」


 メイが可愛らしい声を上げる。

 それは師範と教練校の警備をする兵士たちの一団であった。


「お迎えにあがりました」


 屈強な男達が一斉に膝をついて礼をする。メイとシュンがその様子に驚いていると横からカイが、


「お前らのいう『白兄』は周家しゅうけの者だぞ」


 と、少し自慢気に言った。


「周家の⁈」


 シュンが更に驚きの声を上げる。周家といえば国政を担う名家の一つだ。


「もしや周左大臣の…?」


「ケイはの甥にあたるんだ」


「それは…驚きました」


 それほどの名家につらなる者なら、このような行軍訓練に加わらずとも良さそうなものである。それを積極的に参加して尚且なおかつ下級生の面倒まで見ているなど、想像の枠を超えるものである。


「お前だって張家ちょうけの娘だろ」


 カイの何気ない言葉に、シュンはハッとしたように彼の顔を見る。


「なぜ、それを?」


 カイは内心、また余計な事を言ったと慌てたが、すまして答える。


「あ、朝にケイが言っていた。お前、自分で『家の力だ』って言ってたろ?それでなんとなく聞き覚えがあるとか言ってたな」


「では、知っていて組んでいただいた訳ではないのですね」


 少しシュンの顔が強張こわばっている。


「お前なぁ」


 カイはその物言いに腹が立って、彼女の頭に手を当てて髪をぐしゃぐしゃにしてやった。


「何を…!」


「お前なぁ。張家の方が上の地位なら、お前に近づいて得はあるだろうが、逆だろ?周家の者と近づいて得をするのはお前らの方だろ?」


 きっとシュンは今まで張家に近づきたいという者が周りに多かったのだろう。その中には露骨ろこつに利用する為だけに近づいた者もいたのではないだろうか。


 ほおを膨らませながら髪を直す少女を見ながら、カイは少しだけ同情した。


 そこへケイがやってきた。

 カイとシュンの不穏ふおんな空気を読んだのだろう。


「シュン、メイ。君らと組んだ理由を私が教えよう」


 ケイの声にシュンが顔を上げる。


「集合場所でカイが不安そうな君らを見つけた。困っていた君らを見つけた。それだけなんだよ」


 本当のところは彼女に関して確かめたい事があったのだが、あの時カイに一歩踏み出させたのは、それであったのだとケイは確信している。


 シュンにしてもおぼろげにわかってはいるのだ。何よりカイとケイが自分を特別お嬢様扱いをしなかった事も、伸ばした手をつかんでくれた事も——。


 シュンは片膝を着くと拝手はいしゅし頭を下げた。


「カイ兄、『白兄』。感謝したします。この行軍に参加できた事、その他多くを学ばせていただいた事——」


 感謝いたします。

 シュンは心からの感謝を伝える。


「やめろって、そういうのは苦手だ」


 カイが苛立いらだって言う。そのまま腕をつかむようにしてシュンを立たせると、「帰るぞ」とだけ言った。


「はい!」


 シュンとメイは声を揃えて返事をするとカイとケイの背を追って歩き出した。



 つづく




 次回『情というもの』

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