第26話 雪山の朝

 シュンは靴を履くと、狭い出入り口を見る。白く明るい光が少しだけ入り込んでいた。


 この明るさから言えば外は晴れているのであろう。


 と、そこへ話し声がしてカイとケイが入って来た。う様に入って来て中で起き上がる。


「おう、起きたか」


「お早うございます、カイ兄、『白兄はくけい』」


「ああ、お早う」


 其々に挨拶を交わす。


「カイ兄、私が寝床を独り占めしてしまいましたか?」


「いや、朝まで一緒に居たんだが、陽が昇ったみたいだったから外を見て来たんだ」


 それを聞いてシュンが少し微笑む。


「晴れの様ですね」


「下山できるぞ。メイを起こして朝飯にしよう」


 そこでメイを起こすと、四人で朝食をとる。昨夜と同じ物だが、それに加えて竹筒に入れて来た水も飲んだ。


 それから荷をまとめる。


「余計な物は置いて行く」


 ケイはそう言って、シュンとメイには残りの食料を持たせ、自分達は剣を背負い、その上に毛布がわりにした布を入れた雑嚢ざつのうを掛けた。


「行くぞ」


 昨日と同じ順で進む。


 歩き出してみれば、四人が落ちた場所はわりあい平坦な、ゆるい下り坂であった。


「昨日より楽に歩けるな」


 カイが軽口を叩く。




 しばらくしてシュンがカイに話しかけた。


「カイ兄、昨夜の事ですが、前に私が剣を使っている所を見たとおっしゃいましたね?」


 突然の問いにカイはどきりとした。

 戯言ざれごとと流してくれなかったか。


「ああ、ちょっとな」


「…私に剣を使う素質はありますでしょうか?」


 何処で見たか突っ込まれなくて良かった、というのがカイの本音だ。だが実際の所、彼女はカイの一撃を受け止めている。


「そうだな。俺はあると思う」


「良かった」


 真後ろにいるので表情は見えないが、彼はシュンが安堵の笑みを浮かべている気がした。


「続けるのか?」


出来得できうればれば、ですが…。カイ兄達はいつも何処どこで鍛錬されているのです?」


「俺たち?何処どこでも鍛えてるぜ」


 カイとケイは時間があれば剣や杖を手にする事をつねとしている。教練校一の腕前は伊達では無い。


「私、お二人を教練校でお見かけした事がありません」


「上級生だからだろ。授業が別だしな。それに俺たちには特訓場所もあるからな」


「そんな所があるのですか⁈」


「おう。でも場所は教えねぇよ」


「……そうですか…」


 またもやシュンの感情が——がっかりしたのがカイにも伝わる。


 しかし関わるのはこの行軍だけだ。彼女が自分を見ても何家かけの件を思い出さない事も確認できた。


 春になればこの娘は学校を出て行く。


(俺たちの目的は果たした)





 つづく


 次回『周家の者』

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