第24話 夜話

 ケイがメイの身体を横にしてやりながら、


「あと三ヶ月みつき四ヶ月よつきで取得できる課程ではないな」


 と、言うと、シュンはもどかしそうに返した。


出来得できうる事をする事にしたのです。だから参加出来るならこの行軍もと思いました」


「ああ、師範らが許可した所で四人組に入れなきゃ参加できないからな。誰もお前と組むと思わなかったんだろ」


 カイがそう言うと、シュンもため息をついた。


「やはりそうでしょうか…。分かってはいたのです。私が男子の課程に参加できるのも、全ては家の力であるということは」


 どうやら自分の立場を良く理解しているようである。


「お二人と共に歩いてわかりました。私はまだ知らない事が多過ぎます。杖の持ち方も、雪道の歩き方も…。メイを引き上げる力も無いし、雪洞の作り方も知りませんでした」


 心から悔しそうにしている彼女を見て、カイとケイの二人は目を合わせた。


 この娘は本当に男と同じ道を歩みたがっている。


 変わった娘だと思いながら、カイは聞く。


「お前、剣は誰に学んだんだ?」


「剣、ですか?」


「おう、中々の腕前だと…思っ…」


 そこまで口にして「しまった」と胸の内でつぶやく。ケイも白い目でこちらを見ている。「馬鹿」という声が聞こえて来そうだ。


何処どこかで私の剣を見たのですか?」


「あー…学校のどっかで見た事があったような…」


 カイの言葉があやふやになりそうな事にシュンは気付かないようだ。男二人は内心ほっと胸をなでおろしていた。


「恥ずかしい限りです。私の技量などたかが知れております。メイが言っておりました。お二人こそ教練校一の武術を修めた方々だと」


「あー、俺は強いぜ。アイツよりもな」


 そう言ってカイはケイを指す。

 言われた方もやり返す。


「私の方が上だ」


「いや俺だって。お前は技巧に走りがちなんだよ」


「多彩な技こそ、どのような状況にも対応できる。お前のは力押しなだけだ」


 二人のやり取りを聞いていたシュンは笑った。


「いいなぁ」


 どこか憧れるような瞳でそう呟く。


 少しだけ二人はこの少女に不憫ふびんさを覚えた。自分の望まぬ道にしか進めない立場をかわいそうに思ったのである。


 何かこの道を選んでいる理由があるのだろうと、ケイは知りたくなった。





 つづく


 次回『彼女の理由』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る