第23話 火番

 寝る前に足先もきちんと乾かす。雪靴を脱いで乾いた布で足を包んだ。カイとケイはそれぞれの雑嚢ざつのうから厚手の布を引っ張り出した。毛布がわりの布だ。二人一組で一枚使う事にする。


 座っている順でカイとシュン、メイとケイがそれぞれ布にくるまる。


「火の番はどうする?」


「お前と私でやろう」


「じゃあ俺が先にする。後で起こす」


「ああ」


 短いやり取りで決断が早いのはそれだけいつも共にいるからだ。しかし初めてそれを目にするシュンとメイには、場馴れした先輩達に尊敬の念を抱かせるに十分であった。


 安堵感からかしばらくするとメイが眠りに落ちた。ケイに寄り掛かって寝ている。


 ケイは微笑みながら、


「疲れが出たんだろう」


 と小声で言った。


「ふふっ、かわいいですね」


「幼きものは大抵たいてい愛らしいものだ」


 ケイも再び小声で返す。


「私も弟が居るのですが、このように可愛らしくはありません」


「そういうもんか?」


 カイが聞くとシュンはしかめ面で


「生意気です」


 と言う。それが可笑おかしくてカイは「ぷっ」と吹き出した。


「何で笑うんです?」


可笑おかしいからだ」


 笑われてシュンが頬を膨らませカイを睨みつける。と、カイがその顔を隠す為の黒布をつけていない事に今更気がついた。


 しかし指摘したり理由わけを聞こうとすれば、先程と同じ様に彼は表情を消して顔をそむけるだろう。


 シュンはそのまま静かにカイの横顔を見た。


白兄はくけい』の方を涼やかな美丈夫とするならば、カイは鋭さを持った偉丈夫と言えよう。硬質なけんのある顔だ。


 焚き火の炎が揺れ、カイの横顔にも影が走る。



 ケイが「そう言えば」とシュンに向かって話を始めた。


「次の行軍は無い、と言っていたね。年が明けたら君はいくつになる?」


 ショウ国では——というより大陸の習慣では新年の度に皆一つ歳をとる。生まれは時は数えぬが、それより後は新年を寿ことほぐ度に歳を重ねるのだ。そしてそれとは別に生まれた月にもまたその生まれを祝う事もする。


 祝い事ではあるのだが、シュンはその問いに答えるのにやや躊躇ちゅうちょした。


「…十五になります」


笄年けいねん(女子の成人年齢)か。めでたいな」


「…春に生まれたので春まで教練校に行っても良いと、父から許可を頂きました」


 シュンの冷めた口調に、カイは思わず口を出す。


「あまりめでたくない物言いだな」


「はい。教練校において、女子は十五で校を出なければなりません」


「男子は二十歳まで居ていいからな。大抵の者は加冠かかん(二十歳。男子の成人年齢)で出るが」


「私はまだ本科を修めておりません」


「そりゃ男子が修める課程だろ」


 カイが驚いたように言う。どうやら彼女の口調からすれば、貴族のお嬢様の気まぐれで教練校に居るわけではなさそうだ。



 つづく


 次回『夜話』

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