第22話 お人好し

「うう、良かったです」


 メイが嬉しそうに言う。


「やれやれ、ようやく一息つけるな」


 カイは座布団に腰を下ろした。


「お前らは間に入れ。俺とケイが端に座る」


 火を囲むように四人で並んで座る。半円を作るような形で寄り添い、入り口側がその向かいにあたる。火を囲む円のもう半分で入り口側の外套がいとうを干す形になった。


 カイの隣がシュン。続いてメイ、その次がケイとなる。四人で身を寄せ合うとまた少し暖かくなる。


「手足の先は特に暖めなさい。乾かさないと凍傷になる」


 四人は手を火にかざして暖をとる。


「お前、髪も冷たいぞ」


「あ」


 シュンの隣に座した為かカイがその事に気付く。

 出発時によく晴れていたため、みな何もかぶらずに山に来たのだが、雪まみれになって髪が冷たくなっていた。


「シュンだけじゃないな。雑嚢ざつのうの中に布があるから皆拭いた方が良い」


 そうしているうちに陽が完全に落ちた様であった。出入口から時折見える外の風景は闇に覆われていた。


 四人は持っていた食料を出して半分だけ取る事にする。


「おそらく明日には雪も止む。学校の救助隊の方も動き出すから大丈夫だろう」


 ケイはそう言ってメイとシュンを落ち着かせる。いや、どちらかといえばメイの為である。子どもであるから仕方ないかもしれないが、一方のシュンは割と落ち着いている。


 この山が教練校の練習場として人の手が入っている事を知ってか知らずか、それともそれほど山奥ではない事を知っているのか……。


(女にしてはいやに落ち着いている)


 ケイはそう感じた。


 が、そもそも女子の身で行軍に参加しているくらいだ。肝も座っているのだろう。


 持って来た食料の中から干し肉を出して、火であぶってから口にする。


 食べながらふとカイはシュンに話しかけた。


「お前、行軍の事は残念だったな」


「…いえ、良いんです」


「来年は無いんだろ?」


 そう言われてシュンは少し笑った。

 カイはその笑顔に戸惑う。


「なに笑ってんだよ」


「いえ、あの高さから落ちた事を思えば、登頂のことなど些細ささいなことの様に思えてしまって」


「そりゃあな。俺だって行軍で落ちたのは初めてだ」


「私の登頂は無くなりましたが、かえって雪洞の作り方など実践的な事を学べました」


「前向きだな」


「転んでもタダでは起きぬ、というやつですね」


 シュンは自嘲気味に笑った。


「…俺が一人で先に行かなきゃ良かったんだよな」


「いいえ!カイ兄は私達を助けてくれたではありませんか」


「……」


 こいつお人好しだな、とカイは思った。それとも女子というものはこういうものなのだろうか。しかし彼の知る、例えばケイの周りに集まる女子はこういうものではない。あれは嬌声を上げるけたたましいものだ。


「シュンねえ、これをどうぞ」


 メイがシュンとカイに干しあんずを渡す。ケイから回って来た様だ。


「これを食したら体を休める事としよう。薪もそれほどあるわけじゃ無いからね」


 シュンが頷きながらあんずを口に入れると、甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。



 つづく


 次回『火番』

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