第18話 素顔
山の
この辺りになると山道も山肌に沿うような道に変わっていた。
「壁から手を放さないように進みなさい。大丈夫、落ちる奴は滅多にいない」
シュンとメイを落ち着かせる為に、ケイが後ろから声を掛ける。
二人はその声に頷くと、足を踏み外さないよう注意深く歩き始めた。
皆がそうするので行軍全体の速度が落ち、彼らの組の前後にも長い隊列が自然と出来てくる。
速さのみを競う行軍訓練ではなく、小班体制の成果を求める訓練である為、余程のことがない限り前の者を追い抜こうと細い山道を駆ける者はいない。
皆黙々と自分の調子を崩さぬよう進んで行く。
しばらく行くと、山肌を人の手で削って作られた広場が現れた。
休息所である。
ただそう広くは無いため、手早く食べてすぐに出立しなくてはならない。
シュン達四人も立ち寄り、軽く食事をする。
そうしているうちに、直ぐに次の組が登って来た。
その内の一人がケイの
「あいつはケイの次点の
カイの説明に、シュンは振り返りながら聞き返す。
「次点(二位)、ですか?」
「ケイは首席なんだぜ」
自慢げにそう言って何気なくシュンを見ると、何故か彼女は物珍しげにカイを見ている。
「なんだ?」
「いえ、初めてお顔を見れたので…」
カイはハッとして腕で口元を隠す。
顔を背けるカイの様子を見て、返ってシュンの方が慌てて謝る。
「すみません、失礼な事をしてしまいました」
カイが背を向けながら再び黒布で口元を覆うのを見て、シュンは
(何か
と思った。
ただ顔に傷や痣があるというものではない事は、その顔を見て分かった。むしろ目付きは鋭いが整った顔で、隠すような事は何も無いとさえ思えたほどである。
「ケイ、先に行くぞ」
カイはさっさと準備をすませると、ケイに声をかけて出立しようとした。
シュンとメイも慌てて仕度をして追いかける。
ケイは悠然と「直ぐに行く」と、それだけ言うと再びユウとの会話に戻った。
その脇をすれ違う時に、シュンが耳にしたのは「カイとケイが何故下級生と組んでいるのか」という事であった。
その声に含まれる嫉妬のようなものが、シュンには我が身に振りかけられた気がして冷や汗が出る。
広場を出ると再び山肌を伝う細い道である。
雪の振り方も本格化的になって来た。
何よりどんよりと暗くなって来ている。
広場を出る順番で道へ出てしまった為、カイの後ろにメイが付き、その後にシュンが続く形になった。
風が吹く向きも強さも一定ではなく、目まぐるしく雪が舞い、視界が悪くなって来る。
どことなく急ぎ足で先頭を行くカイは内心素顔を見られた事に焦っていた。
つづく
次回『滑落』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます