第17話 己の魂を

 来年が無い、という言葉にカイは何故なぜかどきりとした。彼女が行軍をきちんとやりげたい気持ちがわかったのだ。


 女子は十五で教練校を出る——。


 カイは無言でシュンの杖を奪った。一瞬、場が静まる。悲しそうな顔をするシュンに向かって、カイは言い放った。


「俺がこれを持つ。お前はコレを背負え」


 そして背にしていた自分の剣をシュンに渡す。


 ケイが目を見開いて驚いている。

 それには気が付かないのかカイは続けた。


「背負う方が楽だろう。早くしろ、雪が来る」


「はい!」


 シュンは意図を理解すると、素早く剣を身につける。剣の方が重いのだが、身につける分動きやすい。


 その様子を目にしながら、ケイは言葉を失うほど驚愕していた。何故ならカイがシュンに渡した剣は、それこそ彼自身と一体となるほど使い込んだものである。


 それを赤の他人に持たせる事が、ケイには意外過ぎた。


「あり得ない」と言っても良い。


(己の魂とも言える剣を預けるなど…)


 ケイの心のうちなぞ知らぬカイが彼に声をかける。


「ケイ、行くぞ。メイの荷物は二人で分けよう」


「あ、ああ」


 メイには何も持たせず、進む事にする。すでに幾つかの組が彼等を追い越していた。


 休息をとったお陰か、持ち物を変えたせいか、今度は四人まとまって進む。


 シュンは前を行く『墨兄ぼくけい』が、彼女が扱いに困ったじょうを軽く肩に担ぎながら何処にもぶつかる事無く山道を登るのを見た。


(この方はあらゆる武具を自在に扱えるのではないだろうか)


 それから時折、後方の『白兄はくけい』を見る。メイの荷物を背負いながら尚、軽々とメイの背を支えて進むさまを目にして、メイが賛辞していた事は嘘では無いのだと感じた。


 この上級生らは教練校の生徒の憧れとなる心と技とを持っているのだ。


(この方達の為にも、私はやり遂げなければならない)


 それは今まで彼女が感じた事の無い使命感のような気持ちであった。



 つづく


 次回『素顔』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る