第14話 四人一組

「おい、お前ら」


 カイはまごついている少女と男児に声を掛けた。掛けられた方は驚いて、うつむいていた顔を上げる。


 シュンの顔を正面から見たのはあの夜以来だ。化粧っ気は無いが、きりりと整った健康そうな顔だ。あの時は夜であったせいか、もっと色白に見えた気がした。


 カイはそんな感想を頭から振り払うと、


「俺達が組んでやる。直ぐに支度しろ」


 そう言われて幼い二人はぱっと顔が明るくなる。


「あ、ありがとうございます」


 二人にそう言われると耳がこそばゆくなる。こういうのは苦手だ。


「うるせぇ、二人とも雑嚢ざつのうを開けろ」


 そう指示して背中の袋を開けさせると、それぞれ二日分の食料と油紙ゆしを入れた。それに目を止めたシュンが珍しげに問う。


「油紙?」


「防水になる。寝る時に使うんだ」


「山頂には山荘が有ると聞いておりましたが?」


 シュンの呑気のんきな質問に、カイは呆れた様に答えた。


「馬鹿かお前。これだけの人数が入れる訳ねぇだろ。あぶれたら外で雪洞せつどう作って寝るんだよ」


「そ、それでは急がねばなりませんね」


 そこへケイがいくつかの雑貨を持ってやって来た。布と藁で編んだ丸い座布団などを数個持っている。


「これを持たせよう」


「おう」


 二人は意思の疎通そつうが出来ている。

 カイとケイは手早く荷をまとめる。カイが麻紐で丸座布団を幾つかまとめている間に、ケイが下級生の二人の服装をあらためる。


「防寒着は着ているな。足元も厚手の物を履いている。よし、雪が入り込まないようにこれを靴との境に巻きなさい」


 そう言って包帯の様な布を渡す。ケイはそのまま男児の足元に布を巻いてやりながら、名を聞く。


「はい、メイと申します」


「では小さきメイ、私達に付いて来なさい。さ、左脚は自分でやってみなさい」


 次いで女子——シュンを見ると、手早く自分で巻いている。近づくと膝を付いた姿勢から顔を上げて名乗る。


「シュンと申します」


 既に知っている名を名乗られるのも妙な心持ちである。


「私はケイ。あっちの黒衣の者は腹心の友、カイ」


「よろしくお願いします」


 立ち上がってシュンは礼をした。


「あちらの方の様に口元もおおった方がよろしいですか?」


 カイの方を見てシュンは問う。

 ケイは苦笑いした。


「あいつはいつもああしてるんだ。山の空気が冷たければしてもいい」


 そのカイの黒衣姿を見て、メイが何かに気がついた。


「あ、あの、もしかしてお二人は…あの『白兄はくけい』と『墨兄ぼくけい』ではありませんか⁈」


「それは何?メイ」


 シュンが聞くと、メイは興奮した様に顔を赤くして、


「知らないんですか?紫珠しじゅの教練校にその人有りといわれる有名なお二人です。ケイさんが『白兄はくけい』、カイさんが『墨兄ぼくけい』。『白兄はくけい』は全生徒の憧れの的で、学科実技共に優秀で並ぶ者が無いといわれてます。『墨兄ぼくけい』は武芸において『白兄はくけい』に勝るとも劣らぬ達人といわれる方なんですよ!」


 武芸の達人と聞いた時、シュンの顔が何かを感じた表情を出す。そのまま反射的に振り返ってカイの方を眺める。


 メイは無邪気に、


「ボク、嬉しいです。お二人と同行できるなんて!シュンねえさんもそうでしょ?」


「え、ええ」


 つられて笑いながら、シュンも同意する。彼女はこう言った噂話にうとく、『白兄はくけい』『墨兄ぼくけい』共に知らなかったのだ。


(雪山行軍が終わったら花蓮カレンにでも聞いてみよう)


 シュンがそんな事を考えていると、カイとケイがまとめた荷を持って来た。



 つづく


 次回『出立』

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