第13話 雪山行軍

 教練校の城内に雪が積もると、冬の教練行事として「雪山行軍」が行われる。雪山での軍事訓練の一つで、武官を目指すものはほぼ全員参加する。


 誰がいつどんな戦場におもむくかわからない。その為出来うる限りの行軍の体験をさせる事が目的である。


 四人一組となり、小班を組む。それぞれ雑嚢ざつのうを渡され、出発地点にある様々なものの中から自分達で必要な物を選び荷を作る。食料はもちろんのこと、雪道を歩く為のものや、頂上の山荘で夜営する為の物も必要になる。


 しかし「行軍」と名打つものの頂上の山荘は教練校の所有するものでもあるし、ある程度山道も整備されている。そこは貴族の子弟の為というものであろう。


 ケイも武官を目指している為、カイと共に毎年参加しているが、この二人は他の誰とも組む事は無かった。


 いつもたった二人で山頂まで登り切るのである。


 二人が下級生の頃は誰も目に止めもしない二人登山であったが、いつしか誰もがこの二人と組みたがったものである。それ程二人の体力と膂力りょりょくは秀でていたし、雪山行軍以外の実戦型授業でもその実力は誰もが認めるものとなっていたのである。


 今年もカイとケイは麓の集合場所で、一緒に組まないかと多くの申し込みを受けていた。希望参加者は大体百名前後であろうか。


 特にケイは周家しゅうけという名家の分家筋である事から、師範らから「下級生の面倒をみて頂きたい」と頼まれていた。


「足手まといを連れて行けってのか?」


 カイが心底嫌いやそうに言うと、ケイは相変わらず優しげに微笑んで、


「わかっている。いつも通り二人で良い」


 と言うと、雑嚢ざつのうの中に食料を詰めた。


「少しで良いだろう。行軍と言っても、登って降りて二日しかかからねぇからな」


「救助隊もいる事だしね」


 それが貴族・士族の子弟の為の配慮だ。熟練の講師、師範、それに教練校の警備をする一般兵らが、救助や補助の為に配置されている。


 このような配慮が、所詮はお坊ちゃんの学校とそしられるのも仕方あるまい。


 カイが薪代わりになるものを探していると、まごついている小さい影が目に入った。


 まだ十歳くらいの男児が、恐らく初参加なのであろうか何をして良いのか判らぬようで、あたりをきょろきょろと見回している。


(なんであんなガキが参加してんだ)


 すると不意にその子に近づいて声をかける者がいた。


「あ…」


 カイは目を疑った。


 あの少女だ。


 目を疑ったのも無理はない。

 この雪山行軍に女子が参加するとは思いもしなかったからだ。


 持ち物を探すふりをしながら様子を伺っていると、どうやらシュンも初めての参加であるようで、慣れないながらもその子の手を引いて小班を組む相手を探そているようである。


 しかし女子と男児と組みたい者など居ない。


 幾人かに声を掛けたが断られ続けている。その様子を見たカイはケイに言った。


「あいつらと組むぞ」


 ケイはカイが指差している方を見て驚いて止めた。


「よせ、なんだってそんな事をする?お前の事を気付かれたらどうする?」


「気づきやしねぇよ。ここ数ヶ月見てても、あいつは誰にもそんな自慢話なんてしてないぜ」


 それに、とカイは続けた。


「下級生の面倒も見るように言われてるんだろ?」



 つづく


 次回『四人一組』

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